東京湾に大津波が襲った時水没するのはどこか?

東京書籍の「中央教育研究所」の理事会でご一緒している谷川彰英先生(筑波大学名誉教授・元副学長、ノンフィクション作家)より、ご著書『地名に隠された「東京津波」』(講談社α新書、2012)をいただいた。
民俗学者の谷川先生が、90年前の東京の地図から、現代の東京の高低を導き出し、東京湾に大津波が襲った時水没するのはどこかを、単念に検証した本で、興味深くもあり、恐ろしさも感じる内容が満載である。
谷川先生が次々出される地名に関する本(大阪、京都、名古屋、東京)から、知らない歴史的事実をたくさん教えていただいたが、今回はそれと同時に、現代我々が津波対策で何をしなくてはならないかを教えていただいた。一読をお勧めする。

東書教育賞 審査員講評

  今日(22日)は、東京書籍の「東書教育賞」(http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/tosho-syo/)第27回の授賞式があり、審査員の一人として参加し、次のような講評を述べた。

 今回審査にはじめて関わらせていただきました敬愛大学の武内です.先生方の熱意と工夫のこもった教育実践をたくさん読ませていただき、大変勉強になり、日本の教育もこれなら大丈夫と心強く思いました。
 社会の消費化が進み、子どもの学習意欲がなくなっていると言われていますが、先生方の教え方の創意工夫次第で、このように子どもの学習意欲が高まり、いろいろ考えさせ、高い知識も身につけさせられるということを知りました。
 ただ、ここに応募され、選ばれた先生方の実践は、日本のトップクラスのものなので、これが日本の教育実践の平均とは言えません。先生方の実践を、先日本全国に広めてほしいと思いました。
 私は専門が教育社会学という教育の社会的側面との関連を見たり、またデータで実証的に検証したりする分野に関わっているので、審査でもその点に重点を置きました。その両面で優れたものが選ばれていると思います。
 その教科の内容や法則を先生が一方的に教えるのではなく、子ども同士のやり取りを取り入れたり、地域に人の協力を求めたり、プレゼンに工夫がなされたりと、さまざま実践があるのが印象的でした 小学校の最優秀の関根先生の健康教育の実践でも、E男君が「かみかみソング」をいろいろな人の協力で率先して作ることが健康教育の実践に貢献していることがよくわかりました。中学校の特別賞の井上先生の大浜飛行場の学習では、見学だけでなく、当時の訓練生の教官の話や地域の人の話を聞いたり、またそれを創作劇にして、保護者や地域の人の前で実演するということまでなされ生徒の学習を深めていました。
 第2の実証性の面でも、子ども達への効果のデータをきちんと取り、その実践の仮説の検証や、実践の効果をはかっているものが多数あり、感心しました。
中学校の最優秀賞の小山先生のストロー橋制作実習では、実験の第1回と第2回のデータの比較をし、また競技大会終了後の生徒の感想を丁寧に考察しています。小学校の優秀賞の宇都宮先生の理科ノートのチックでも、指導前の9月と指導後の12月で、よく出来た二重マルの数を比較して、実践の効果を測定しています。中学校の優秀賞の小松先生の英語日記を書かせる実践でも、生徒にアンケートを取り、このような活動で「自己表現が好きになってきたか」を聞き、また生徒の感想を丁寧に考察しています。
仮説の検証という言葉もよく使われるので、そのことで、一言申しあげておきたいと思います。「疑似相関」という言葉があり、見かけ上は関連がありそうだけれど、それは偽の相関だということです。ある新しい教育方法を学校や教師が信奉し一生懸命やると、大体子どももやる気を出しいい成果が出ます。しかし、それはその教育方法のせいではなく教師の意気込みのせいであることが多くあります。それを検証する為には、教師の意気込み同じ比較のグループを作ったり、結果に影響する他の変数を統制したりする工夫も必要と思います。 とかく、教育は信念や教育愛が先行しがちなので、科学性や実証性も大事だということを強調しておきたいと思います。その両方が満たされているものが今回、受賞されていますので、これらの実践が広がり、日本の教育が発展することを願っています。本日は、おめでとうございました。

学生に勧める1冊の本

これまで仕事や趣味で多くの本を読んできたものからすると、1冊の本を勧めるのは難しい。これは全く私の好みになるが、小説で言えば、夏目漱石、古井由吉、村上春樹、評論で言えば吉本隆明、江藤淳、藤原新也、社会学で言えば作田啓一、上野千鶴子などの本がお勧めである。
ただ、これらの人の名前を全く知らない学生諸君も多いのではないか。こども学科の1年生の授業の中で、上野千鶴子の名前を知っている人を尋ねると皆無であった。氏はジェンダー研究では日本の第一人者であるし、社会学者としても優れ、マスコミにもよく登場する。それだけ、大学教師と学生の間には、世代ギャップもしくは好みのギャップがある。そのギャップを埋めるべく、1冊の本を勧めるのは難しい。
一言「右の誰かの本を1冊でも読んでほしい。どれも面白いはず」と言っておきたい。たとえば、江藤淳の『成熟と喪失“母”の崩壊』(講談社文芸文庫)を読んだ時の衝撃は忘れられない。日本の親子関係や日本文化に関していろいろ考えさせられた。その本の解説で、上野千鶴子は「涙なしでは読めなかった」と書いている。
そこで、今回は、1冊の本を勧めるのは諦め、私がグループのメンバーと一緒に書いた本をあげておきたい。本の題は、『キャンパスライフの今』(武内清編、玉川大学出版部、2003年、2100円)。
「授業、デート、アルバイト、サークル・・etc,データで読む平成版当世学生気質」「学生にとって大学は単に知識を習得する場であるだけではなく、さまざまな体験や出会いの場である。学生達は、授業、ゼミ活動、サークル活動、アルバイト、交友、異性交際、読書、情報行動などのよって、高校時代にはできなかった多種多様な体験や活動をし、社会性やアイデンティティを形成している」というのが、本の内容を紹介した帯の言葉。
大学のキャンパスライフの様子を19大学の学生2130名の回答から教育社会学的に考察したものである。学生諸君の今のキャンパスライフと突き合わせて読んでもらうと、キャンパスライフや自己分析に大いに役立つと思う。高校生が読めば、大学選びや大学生活への予備知識になる。「新入生の大学への適応」「大学生にとっての勉学の比重」「学生はなぜ授業中私語をするのか」「体育会系部とサークルの違い」「恋愛の大学デビューは可能か」「合ハイから合コンヘ」など、キャンパスライフを送る上で重要なテーマに関して、実証的なデータもまじえて考察し、キャンパスライフのあるべき姿を探っている。

音楽教科書の分析

昨日のゼミ(上智大学大学院、非常勤)で、「音楽教科書における伝統文化」という発表があった。教科書の内容分析は、社会科や英語に関して行われることが多いが、芸術科目に関してはあまりなされていないので興味深い。
教育基本法の改定、2008年の学習指導要領の改訂で、日本の伝統や文化の教育が強調され、音楽にも日本のわらべ歌や遊び歌が取り入れるようになっている。
学習指導要領では、「日常の生活に関連して、情景を思いうかべやすい楽曲」(旧)から「我が国の及び諸外国のわらべうたや遊びうた、行進曲や踊りの音楽など身体反応の快さを感じ取りやすい音楽、日常の生活に関連して情景を思い浮かべやすい楽曲」(新)へと記述が変更になっているという。
その実際を、教科書にあたって分析すると、教科書各社(東京書籍、教育出版、教育芸術社)によって違いがあるという。
音楽教育によって、日本の伝統を教えることの効果はどの程度あるのだろうか。愛国心などが高まるのであろうか。その実際が調べられた興味深い。(確か、西島央氏の戦前の音楽教育に関する分析があったことを、ここで思い出した。)

渡部真『ユースカルチャの社会学-対話篇』

横浜国大の渡部真さんが、『ユースカルチャの社会学-対話篇』(2011)という素敵な本を出し、さらに、その続きを、ブログで書いている。とてもユニークな見方が多く、ハッとさせられる。一読をお勧めする。
 ブログアドレス  http://sociologyofyouthculture.blogspot.com/