クモの糸に思うこと 水沼文平

嵐山光三郎著「漂流怪人・きだみのる」のP22、嵐山が八王子にある異臭漂う散らか
し放題の「きだみのる」の部屋を訪ねた時にきだは言う「部屋のクモの巣はとり払っ
てはいかんよ。このあたりはヤブ蚊が多くてな、クモはヤブ蚊や虻やハエをつかまえ
て食ってくれる。ヤモリも虫を食う。まあ、同居人みたいなものさ」。

これを読んで「家クモ」という言葉を思い出した。こどもの頃、家の天井の四隅にク
モが円い網のような巣を作っていた。母が「クモはヤブ蚊やハエを退治してくれるん
だよ」と教えてくれた。また母の生家の倉にアオダイショウが住みつきネズミを主食
にしていた。梁からぶら下がっているのを見たことがある。昔の人はクモを「神様の
使い」、ヘビを「家の守り神」として大事にしていたようだ。

築40年の和風平屋に移って8ヶ月、雑草だらけの庭にもテッポウユリやコスモス、ノ
ギク、アサガオの花が咲いている。鳥たちが絶えず目の前を横切り、トンボやカノコ
ガ(鹿子蛾)、チョウも飛んでいる。夜になると虫の集く音がいちだんと高くなって
きた。

育った故郷が一望できるので自然との一体感を求めて廊下の網戸をとり払った。そし
て二か所に「蚊取り線香」を焚いている。蚊取り線香は至近距離での殺虫効果はある
が蚊を寄せ付けないという効き目の方に着目した。しかし煙の合間を縫って蚊が家の
中に潜り込み時々刺されることがある。その痒さと腫れていく皮膚を見ていると故郷
に戻ったという実感が湧いてくる。先日は外で「ブヨ」に食われ、何十年振りかでブ
ヨという名前を思い出した。

きだみのるに触発されて、家の天井の四隅を点検したら二か所でクモが巣を張ってい
た。玄関の庇の下にもクモの巣があった。きだに習って「同居人」として大事にして
いきたいと思っている。

それにしても不憫なのはネコである。飼いネコは天井を走るネズミを知らずもっぱら
愛玩用として飼われている。毎日三匹の野良猫が我が家の庭に食い物をねだりに来る
が、これも半寄生的な生き方である。ネコは弥生時代から日本に住み着いていると言
われている。益獣としての長い歴史に幕を閉じ、これからどういう生き方をしたいの
かネコ達にインタビューをしたいものである。

動物学者にして社会学者、動物的な生き方をした「きだみのる」を知り、得ることが
多かった。一昨年の熊本地震、今年の近畿圏の大雨、そして今回の北海道の地震を考
えると、昔の日本人は地震、噴火、台風、津波などの自然の脅威に慄き、自然に対し
て畏敬の念を持ち、自然とは対立しない生き方(自然との共生)をしてきた。8月下
旬に陸前高田市に行った。6万本の松があった松原跡には、無駄としか思えない高さ6
mの堤防が延々と続き、3.11並みの津波(15m)にどう対処するのか、昔の街全体を
覆う10mの「嵩上げ」にも愕然とした。

残り少ない命を思うと、益虫だろうが害虫だろうが「一寸の虫にも五分の魂」という
言葉を大事にしたいという殊勝な気持ちになってきた。

同窓会について

筑波大学の黄順姫さんは、高校の同窓会研究で興味深い本を書いている(黄順姫2007『同窓会の社会学』世界思想社)。
今回の高校教員のデータの同窓会関係のところの分析をお願いした。
「同窓会は学校の組織ではないにしても学校と心理的・文化的・社会的・政治的な面で関連する組織であり、学校を活性化・維持していために活用できる支援組織である」と述べている(教育社会学会70回大会・発表要旨集録)
現在は、大学の同窓会のことも調べ、また筑波大学で同窓会をどのように活用するかを考え、実践もされているようだ。

私も、黄さんの高校の同窓会の分析枠組みを、大学に適用して、短い文章を書いたことがある。
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大学の同窓会といえば、外国の大学の日本人会の同窓会というものもあり、私のところにも、Wisconsin大学日本人会のニュースレターが送られてくる。懐かしい。
http://www.waa-japan.com/

大坂なおみ テニスの全米オープンの女子シングルスで優勝のこと

大坂なおみのテニスのUSオープンの優勝は日本人初ということで、テニスをやるものとしてうれしいニュースである。
ただ、実際の試合や表彰式をテレビのライブで見たわけではないが、会場ではセリーナ・ウィリアムズを応援している人が多く、大坂なおみの優勝に大ブーイングが起こり、彼女が表彰式では涙くんでいたと、インターネットでは報じられている。
日本のテレビや新聞は、そのことをほとんど報じず、大坂なおみの優勝をたたえる記事だけなのも、どうかと思う。
また、スポーツなのに、他国の人間が優勝したことにブーイングするとは,アメリカ人もそんなに狭い了見になったのかと驚く。(真実はもう少し、別のところにあるのであろうか。)

ここまで書いて、朝日新聞のデジタル版をみたら、どうも事情は少し違うようだ。ブーイングは審判に対しておこったもので、大坂なおみに対するものではないことがわかった。テニスファンがそこまで偏屈なはずがない。

大坂・セリーナ、殺気立つ観衆静めた ブーイングが一転
 アーサー・アッシュ・スタジアムが騒然となった。
 ニューヨークで行われているテニスの全米オープンの女子シングルス決勝で8日(日本時間9日)、大坂なおみが4大大会優勝23度の元世界ランキング1位、セリーナ・ウィリアムズ(米)から第1セットを奪い、第2セットも4―3とリードした場面だった。
 関係者席のコーチの身ぶりが「コーチング(指導)」の違反と見なされて警告を受けたセリーナは第5ゲームでブレークバックを許したときに、ラケットをコートにたたきつけて壊した。これが2度目の警告で、1ポイントを失った。
 さらに第7ゲームでブレークされた直後、ベンチに座ったセリーナは、ポイント剝奪への怒りが収まらず、主審に対して「私に謝りなさい。あなたはポイントも奪ったから、泥棒」と口汚く罵倒し、1ゲームの剝奪を言い渡された。
 異例の事態に、場内は主審へのブーイングの嵐が巻き起こった。結局、6―4で第2セットも連取した大坂がストレート勝ちした。
 表彰式でも当初はブーイングが鳴りやまなかったが、自身の立ち居振る舞いが恥ずかしいと気づいたのか、セリーナが審判らに憤る観客を制した。「もうブーイングはやめて。前を向きましょう」。準優勝のプレートを高々と掲げたことで、騒ぎは収まった。
 悲願の初優勝を飾った大坂に表彰式で満面の笑みはなかった。「こんな試合の終わり方ですみません。試合を見てくれてありがとう」と観衆にとつとつと語りかけると、称賛の拍手が20歳のヒロインを包んだ。場内にいた観客も、大坂の初優勝を祝福した。
(朝日新聞デジタル版9月9日より一部転載 https://digital.asahi.com/articles/ASL9944QGL99UTQP01G.html?iref=comtop_8_03 )

ニューヨークタイムには、詳細な報告がある。https://www.nytimes.com/2018/09/09/sports/serena-osaka-us-open-penalty.html?action=click&module=Top%20Stories&pgtype=Homepage
(一部転載)
A Muted Celebration
Williams and Osaka stood next to each other on the podium with the former champions Chris Evert and Billie Jean King and the U.S.T.A. president, Katrina Adams, but no one smiled at first. When the M.C. started to speak, the fans unleashed loud boos and Osaka pulled her visor over her face again, and wept.
Seeing that, Williams put her arm around Osaka and said something to ease the tension. When it was her turn to speak to the crowd, she implored the fans to stop booing and to laud Osaka’s achievement.

季節の花

時々、家の近くのホームセンターへ庭の植木鉢に植える花(の苗)を買いに行く。昨日寄ってみたが、今の季節、たいしたものがない。今は、夏と秋の境で1年のうちでも一番花がない季節なのかもしれない。
夏は、ひまわりやポーチュラカなど夏なりに咲く花がいろいろある。また秋は菊をはじめとしていろいろな花が楽しめる。
うちの庭では、夏の朝顔が今頃になって咲きはじめた。まだ夏のように暑い日が続き、大学も夏休みなのでちょうどいいのではあるが。

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社会調査の信頼性について

現在各分野でエビデンスの重要性が言われ、社会調査の重要性が高まっているように思う。
しかし一方で、個人情報保護などで調査の実査は難しくなり、サンプリングがいい加減で、回収率も低い調査が、その結果だけが注目されるような事態も多くなっている。
渋谷の街頭で100人に聞いた結果が、あたかも日本人の今の好みの実態(エビデンス)のように報道されることも多い。これでは、社会調査の信頼性はますます低下していくことであろう。

一方、社会調査の研究者は、調査の誤差を少しでも少なくするように努力している。
その一端を社会調査の専門家で、アメリカの研究動向に詳しい小島秀夫さんが、教えてくれた。例えば、調査の回収率の違いによって、項目間の規定関係に違いが出てくるという実証研究まであるとのことである。

<単純集計結果でも、回収率が50%の場合と70%の場合では結果に差が見られるといった研究もあります。こうしたことは無回答の問題として広く研究されています。回収率などによって相関係数なども変わる可能性があると思います。その結果、結論も変わる可能性があると予想されます。>
<例えば、「あなたは幸福ですが?」と質問した結果と「あなたは不幸ですが?」と質問した結果は同じになるはずですが、実際には差があります。>
<私自身は調査結果については、真値+誤差から構成されていると考えています。この真値に近いものが信頼性が高いというものです。調査の場合は誤差がありますが、その誤差をいかに少なくするかということが問題です。アメリカなどでもtotal survey error approachなどが言われています。この方法は、調査の概念化から実施、分析,結果までに存在する誤差を低減させるというアプローチですが、実際に誤差をなくすことが不可能です。そこで重要なのはいかにそれらの誤差を制御しているのかということです。調査関係の研究はアメリカの研究の影響をかなり受けています。>