宮崎駿・ジブリの映画について

寝る前にテレビのチャンネルを付けると意外にいい番組に出くわすことがある。昨日(12月29日)、NHKの総合で、「コクリコ坂から」制作に挑む親子の物語をもう一度!(2011年8月初回放送)」を見た。

<2人の人物の絆を描くドキュメンタリー「ふたり」。今回は映画監督・宮崎駿さんとその長男・吾朗さん。2011年公開「コクリコ坂から」は吾朗さんが監督、駿さんが脚本を担当。二人の合作ともいえる作品だ。しかし二人の間には知られざる葛藤があった。70歳にしてなお映画への情熱をたぎらせる父。偉大な父と比較される宿命を負いながらも、挑戦を続ける息子。衝突しながらも同じ目標に向かい情熱を燃やす父と子の物語>である。

宮崎駿のアニメ映画やジブリの映画は好きでこれまでほとんど見てきたように思う。宮崎吾郎の「ゲド戦記」はあまり評判がよくなかったが、見た印象は悪くなかった記憶がある。「コクリコ坂から」は好印象が残っているアニメだが、宮崎吾郎監督の映画とは失念していた。(この映画は、小5の姪と一緒に見に行って、最後のところの筋を姪から教えられたことを覚えている。)父と息子の葛藤というのは自分では経験していないので、あまり感じることはないが、「りっぱな父親を持つと大変」ということはわかる。

 歴代興行収入ランキング」(http://www.eiga-ranking.com/boxoffice/japan/alltime/total)を見ると、最近まで、「千と千尋の神隠し」が1位で、50位までに6作品(「ハウルの動く城」6位、「もののけ姫」(7位)、「崖の上のポニョ」(12位)、「風たちぬ」(22位)、「仮ぐらしのアリエッティ」(42位)が上がっている。その他に「風の谷のナウシカ」「トトロ」「魔女の宅急便」他、印象に残っている作品も多いので、宮崎駿、ジブリの映画・アニメの凄さがわかる。

 ただ、少し前に新海誠監督のアニメ映画「君の名は」(2016年)、「天気の子」(2019年)を見た時、その画像の新鮮さに驚き、その観点からみると宮崎駿の映像がその色彩も含めて、1時代前の古めかしいものに見えてしまった。

今日(30日)のNHK総合21時30分から、宮崎駿、監督・宮崎吾朗によるジブリ最新作「アーヤと魔女」が放映されるというが、どのようなものに仕上がっているのか。また、最近「千と千尋の神隠し」の興行成績を抜いて1位になった「鬼滅の刃」の映像は、どのようなものなのであろうか。いろいろ自分の目でも確かめてみたい。

韓国ドラマ「マイ ディア ミスター」の感想 (その2)

韓国ドラマ「マイ ディア ミスター」の人間関係は、どの関係も皆ギクシャクしている。それは、現代社会の人間関係がそれだけ難しくなっているということの表れでもある。

唯一安定しているのは、生育家族(生まれ育った家族)の人間関係である。韓国の伝統的な家族主義的な関係が結局基本にあるように描かれている。子どもが大きくなっても母親が子どもを思い、子どもも母親を一番大切にする。兄弟は喧嘩しながらもお互いを気遣い、兄弟の幸せや悲しみを共有する。生育家族との関係が強すぎて、主人公(ドンフン)の夫婦関係はうまくいかない(奥さんは主人公が最も嫌う男と浮気までする)。

主人公(ドンフン)の兄(サンフン)は職場を首になり、家で酒ばかり飲み、娘の結婚の御祝儀をねこばばまでするようになり、奥さんに愛想をつかされる。弟(ギフン)は、映画監督として一度脚光を浴びたものの才能のなさに気付き、主演女優にその責任を押し付け、その罪悪感とその女優への愛情と後ろめたさから、慕ってくれる彼女の気持ちを受けとめられない。天才肌の友人は、理想的な近代家族の限界を感じ、相思相愛だった女性と別れ、僧侶になってしまう。

主人公とヒロイン(イ・ジアン)の関係は、上司と部下、叔父と姪(父と娘)、援助者と被援助者、詐欺の標的、恋人関係、というさまざまな要素を内包しながら動的に展開し、最後に行きつくところはどこなのかわからず、ハラハラさせられる。

現代は、伝統的社会の安定した家族関係、近代社会の友愛を基礎にて成立する核家族ではやっていけなくて、さまざまな人間関係が交錯する中で、皆苦しみながらも、過去は「どうってことない」と目をつぶり、「ファイト」と未来に向けて歩く(時に「かけっこ」もする)生き方(「リジリエンス」な生き方)をする時なのであろう。そのようなことを考えさせられるドラマである。

追記 ドラマの中で、ヒロインは主人公に「ファイト」と励ます場面がある。あまり関係はないが、中島みゆきの「ファイト」を、吉田拓郎の歌で聴きたくなる。「戦う君の歌を 戦わない奴らが 笑うだろう ファイト 冷たい水の中を 震えながら 登っていけ」という歌詞が印象的。社会学は自分では戦わないくせに戦う人を冷笑する傾向がある。自戒したい。

韓国ドラマ 「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」を見終わる

韓国ドラマ 「マイ・ディア・ミスター (私のおじさん)」第16話を、ネットフリクスで見終わった。見終わるのに1ヵ月くらいはかかったように思う。人に薦められて見はじめたが、最初の方は何か暗く、韓国の庶民階層の暗い生活がいくつも、脈絡もなく描かれているようで訳が分からず、かなり早い回で見るのをやめてしまった。その後断続的に見て、後半になるとあまりにドラマチックで次の展開が読めず、ハラハラドキドキしながら見た。人生に敗れた人々が酒を一緒に飲み、傷を嘗め合いながら何とか生きていくもどかしい場面も多くありながら、何か温まるストーリーであった。韓国では家族の繋がりが強い、兄弟がこんなに仲がいいのか、同郷の絆も強い、学校の先輩後輩関係は後まで響くなど、日本との違いも知った。このドラマは、中心の二人だけでなく、脇役の人たちの人生も味わい深い。特に、ヒロインも含め個性的で魅力的な4人の女性が登場しているのもいい。ネットから感想を少し、転載しておく。私と同じよな感想が綴られている。

「とても良いドラマでした。最初は良さがわかりませんでしたが、それぞれの心の動きや相手に対する気持ちの変化が見えて来て、どんどん嵌まって行くドラマです。本筋を支えるそれぞれの出来事も涙と笑いが満載で楽しめます。とてもお薦めのドラマです」「こんなに不幸な人も珍しいというくらいにヒロインが悲惨な人生を歩んでいるなかで、出会った男性。そこで少しずつ笑顔を取り戻していく感じが良いですね。始めは救いようがないダークなドラマだと思っていたものの、どん底から這い上がることも出来るかもしれないと勇気をもらえました」「ヒロインが孤独や多額の借金を抱えていて人生に対して諦めのように感じている状況からすこしずつ心を開いていくという展開がとても素晴らしいです。あまりにも重い内容に始めは戸惑いましたが、見ていくうちにすっかりはまってしまいました」「辛い人生をいきる女性とその女性を取り巻く人々。目を背けたくなるようなシリアスな場面もあるけれど、人生について考えさせられる時間を与えてくれました」「歌手であるアイユの演技が素晴らしい。財閥、記憶喪失、復讐などのテーマがほとんどの韓国ドラマの中で、このテーマは普通っぽくて良かった。イ・ソンギュンが個人的には一番好きな俳優なので、どの作品も見ているが、コミカルな役が多い中、このドラマの冴えない会社員はとても良かった」「始まりは不純だけど、その後の展開がどうなるか分からないっていうストーリーがありますよね?『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』はそんな作品だと思います。〔ドンフン〕(演:イ・ソンギュン)と〔イ・ジアン〕(演:IU/アイユー)の不思議な関係がどうなっていくのか、あなたのその目で確認してみて下さい!」「序盤の物語が重いというか暗い感じなので、なかなか見続ける事が辛いのですが、見終わってみれば、人情物語であたたかな気持ちになれます。優しい人間に癒される、そんなドラマです。」

動的均衡、レジリエンスについて

昔読んだ本の中に、家族力動論というものがあったと思う。それは社会学と精神医学の融合した理論で、家族は一つのシステムで、そのシステムの均衡を維持するために、メンバーの弱い部分に力が加わり、その弱いメンバーが犠牲になり、何とか家族の均衡が保たれる(崩壊しない)というものである。夫婦仲の悪い家族の幼い子どもが一時的な精神障害に陥り、その子を心配することで何とか家族が崩壊を免れるというものである。これは、社会学も構造機能主義が優勢な時代のものである。その後、社会学も静的均衡ではなく、動的な変化を説明する理論が求められ、この理論は廃れていったように思う。2020年1月24日のブログに書いたことだが、「レジリエンス」という言葉が、その後の動的な均衡を説明する理論の1つとして出てきたように思う。(下記に再録)

「(レジリエンスとは、)環境の変化に対して動的に応じていく適応能力のことである」「脆弱性とは、変化や刺激に対する敏感さを意味しており、環境の不規則な変化や悪化にいち早く気づける」「レジリエンスは、均衡状態に到達するための性質ではなく、発達成長する動的過程を促進するための性質である」「レジリエンスは、環境の変化に対して自らを変化させて対応する柔軟性にきわめて近い性能」「(レジリエンスが活かせる環境を構築するためには)子どもの潜在性に着目して、職場や環境が変わっても続けられる仕事につながるような能力を開発すべきである」「(レジリエンスの立場から)ケアする者がなすべきは、さまざまに変化する環境に対応しながら自分のニーズを満たせる力を獲得してもらうように、本人を支援することである」(河野哲也『境界の現象学』)

12月21日の日経新聞に「ガンに負けぬレジリエンス」という題で、精神科医の清水医師(がん研有明病院腫瘍精神科部長)の取り組みが紹介されていた。(下記添参照)がんの場合、精神的なことも大きく、「気にすることではない」と未来に積極的になりことが大切なのであろう。(韓国ドラマ「マイ・ディア・ミスター」でも主人公が同じようなことを言っていた)