敬愛大学 「教育原論」11回 講義メモ(6月28日)

今日のテーマは教師について(その2)です。テキストでは、98ページから100ページにかけてです(私が少し書いています)。そこをご覧ください。基本的にはプリントと使って話します。先週と重なる部分がかなりあります。退屈かもしれませんが、同じことを2度聞いた方が、印象に残るということもあると思います。

まず先週の内容を、リアクションのコピーから確認してください。先週は日本の教師の置かれた状況を時代や他の国との比較で理解してもらいました。教師は働き過ぎる理由は「自己実現ワーカホーリック」と解釈した方が多かったと思います。そのことへの評価が比較的肯定的な人が多いのが意外でした。本田由紀さんは、「自己実現ワーカホーリック」をかなり否定的に、そんなにまで働く必要がない、騙されたら駄目だよというスタンスで書いていたと思いますが、皆さんの中には、子どもの為に自分が奉仕するのは当然で尊いことだという意見が多くみられました。

今日の2番目は、全国の教員採用数の将来予測の記事(潮木守一「教員養成戦略見直しを」日経新聞、2012年)が見つかったのでコピーしました。これから、地域別の教員採用の増減がわかります。

3番目は、外国に比べ、日本の教師は何に忙しいのかということを、先週は最近のデータから見てもらいましたが、2014年(5年前の)データでも同じことが言われ、まったく改善されていないということがわかります。日本の教員文化にある特質があるのかもしれません。

4番目は、清水義弘「現代教師のカルテ」(198911月)と少し古いものですが、教師は楽な仕事という指摘です。どのように思いますか。

5番目は、先週に東京都の教員の一日を見てももらいましたが、それをもう少し詳しく記述したものです。学習指導、生徒指導、校務分掌、研修、社会の期待、モンスター・ペアレントというテーマが取り上げられています(伊藤潔志「先生ってなぜ大変なの」『教育学への問い』福村出版2009)。もう一度教師の仕事を確認してください。

6番目は、眞金篤子「教師のメンタルヘルス」で、そのような忙しさの中で、教師がバーンアウト、精神的にもおかしくなってしまう傾向が強いという指摘です。教師を目指以上、このようなことも覚悟して下さい。

7番目は、文部科学省の、「チーム学校」の提言で、いろいろなスタッフを学校に入れて、教師の負担を減らそうというものです。教師の多忙化を防ぐ方策について考えてください。

教育原論リアクション(第11回、2019年6月28日) 教師について(その2)

1 前回リアクション(6月21日)を読んでの感想 2 潮木守一「教員養成戦略の見直しを」(2012年)を読んでの感想 3 毎日新聞「授業外の仕事に追われ」(2014年)を読んでの感想 4 清水義弘「現代教師のカルテ」(1989年)を読んでの感想 5 伊藤潔志「先生ってなぜ大変なの?」で指摘していることは何か。6 教師のメンタルヘルスを図るには、何をすればいいのか。 7「チーム学校」とは何か。これで教師の置かれた状況は改善されるか?

間際のキャンセル、申し訳ない。

一昨日(6月30日)の学会の折、椅子から立ち上がった時、右膝の周囲に違和感が生じ,右足に体重がかかると痛み、片足を引きずりながら、何とか帰路についた。齢を取るとはこのようなことなのかと、暗澹たる気持ちになった。

サロンパスを張って一晩寝ても症状は変わらず、次の日近所の整形外科で診てもらった。(ただそこはあまり整形が専門ではないようで、)膝や足の痛みを少し調べたのとレントゲンを撮っただけで、「軟骨が薄くなっているようですね、張り薬と痛み止めの薬を出しておきましょう。1週間はあまり動かないように」という簡単な診断であった。

翌日(7月2日)に近所の卓球仲間の人に誘われて、東京ドームに巨人―中日戦を見に行く約束をしていたが、それをキャンセルせざるを得なくなった。(プロ野球観戦は人生で3度目、しかも東京ドームやバックネットからの観戦は人生はじめて。それが実現せず残念であったが、それ以上に誘ってくれたHさんには間際のキャンセルで大変申し訳なく思った)

 齢を取ると若い頃とは違い、いろいろな支障が出て、約束も果たせなくなるのが困る。安易に予定(約束)を入れることができない。

「傘がない」の英訳詞について

ヒットする歌は、多様な解釈が可能なものが多いと言われる。マドンナの「ライク ア バージン」も一つの言葉にいくつもの意味を込めている、とフィスクは解釈している。(山本雄二訳「抵抗の快楽」)

1970年代初頭に一世を風靡して今もカラオケなどで歌われる井上陽水の「傘がない」も、多様な解釈が可能だからであろう。これについては、私のブログでも2012・5122017116で言及している。前者では、次のように書いた。

<東京成徳大学の「青年文化論演習」の授業で、井上揚水の「傘がない」に対する副田義也先生の分析を紹介した(『遊びの社会学』)。1970年代に入り、学生運動が終焉して、若者の関心が社会的なことから私的なこと(恋愛や自分の心理)に移ってきたという分析である。授業では、彼は君(彼女)に会いに行くのか? 「君」や「雨」や「傘」は何を象徴しているのか?ということで盛り上がった>(2012・512

最近、『井上陽水英訳詞集』 ロバートキャンベル〈著〉という本が出たということを新聞の書評欄で知った(添付参照)。英語というのは日本語と違い論理的な言語なので、かなり明確な歌詞の解釈を示さないと翻訳はできないのではないか。マドンナの歌詞のように一つの言葉に多様な意味をかぶせることができるのかと思った。また、「傘がない」に関しては、井上陽水自身が下記のように言っているというのが紹介されているが、それは今の本人の解釈であり、作詞当時がそうであったのか、また作詞者の意図と作品の内容は別(作品は作家から独立している)ということも考えられるが、一つの新たな解釈として興味深いと思った。

「都会では自殺する若者が増えている」という出だしから、「だけども問題は今日の雨 傘がない」への転換が印象的な「傘がない」。I’ve Got No Umbrellaと訳そうとする著者に対し、陽水はこれは「『俺』の傘ではなく、人間、人類の『傘』なのです」と答える。(朝日新聞、6・29より転載)

一般的には、「傘がない」では、「雨」は若者に降りかかる社会や世間の過酷な状況や冷たさを象徴し、「傘」はそれ防ぐ若者自身の能力を表していると解釈できると思うが、「『俺』の傘ではなく、人間、人類の『傘』なのです」という井上陽水の自身の解釈をどうとればいいのか。是非、ロバートキャンベルの訳詞を読んでみたいと思った。

敬愛大学「教育原論」第10回(6月21日の)の記録

教師に関して、特に最近話題になっている教師の多忙化に関連して、資料を読んで考えていただきたいと思います。4つの資料をお配りしています。

第1は、東京都教育庁がこれから教師を目指す人向けに作ったパンフレットの「小学校の一日」です。そこから具体的に教師の学校での1日をみてください。朝の挨拶、出欠、欠席の子どもの保護者に電話、授業、校庭で児童と一緒に遊ぶ、授業、給食指導、授業、児童と一緒に清掃、帰りの会、校務分掌、学級事務、学年会等、教師の1日は休む間なく、夜まで続きます。ここから教師の仕事内容、なぜ教師は多忙なのかを考えてください。「中休みには、校庭で児童と一緒に遊ぶようにしましょう」「児童と一緒に食事をする」「児童と一緒に清掃」と、遊び、食事、清掃にも教育的な意味があるとし、教師が指導するこが奨励されています。

第2に、新聞記事「教員 進まぬ改革」(朝日新聞6月20日、朝刊)から、日本の教師の仕事の特質を考えてください。他の国と比較して、日本の教師は何に費やす時間が多く、何に費やす時間が少ないのでしょうか。日本の教師は世界の教師の平均と比べ、「課外指導」と「事務業務」の時間が長く、「職能形成」の時間が少ないことわかります。研修の時間が少なく、教師の力量が問われる「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の指導が極めて少ないことが数字で示されています。

第3に、恒吉僚子「人間形成の日米比較」(中公新書)から、日本の学校や教師の指導の特質を考えてください。これは、エスノグラフィー(参与観察)という方法で、日米の小学校の学校や授業の様子を比較したものです。アメリカが教師の指示、授業中心、個別化、外在化という特質があるのに対して、日本は日直や係の指示、いろいろな活動に教育的意味の付与、集団行動、内面的な感情や動機に訴える(自発性)という特徴があることがわかります。日本も,教師の仕事を分業化・外部化してアメリカ化しようとしています(「チームとしての学校」等)。

第4に、本田由紀『軋む社会』という本から、教師の忙しさは、「経済合理性」「集団圧力系ワークホーリック」「自己実現系ワークホーリック」のどれで、説明できるか考えてください。以上、4つの観点から教師の現状や多忙化を考えてください。

教育原論リアクション(第10回、2019年6月21日) 教師について                                                               1 前々回(6月7日)・前回(14日)リアクションを読んでの感想 2 日本の「学校の一日」(東京都教育庁)から教師の仕事を考えよう(教師の仕事内容、なぜ教師は多忙なのか、等)3 新聞記事「教員 進まぬ改革」(朝日新聞6月20日)から、日本の教師の仕事の特質を考えよう(何に費やす時間が多く、何に費やす時間が少ないか)4 恒吉 子「人間形成の日米比較」から、日本の学校・指導の特質をあげなさい。5 教師の忙しさは、「経済合理性」「集団圧力系ワークホーリック」「自己実現系ワークホーリック」のどれで、説明できるか(本田由紀『軋む社会』参照)6 他の人のコメントをもらう。

小中一貫教育について


以前に私立の中高一貫校に対抗して公立の中高一貫校ができて、その是非をめぐって教育社会学者も意見を述べていて、学会でも論議があったように思う。私も県立の千葉高が2クラスほど中高一貫になり、視察に行ったことがある。

最近は、その議論を聞かなくなったと思ったら、今は小中一貫教育が問題になっていることを知った。小中一貫教育に関する法律までできて、いくつかの市町村で先進的な試みがなされているようだ。

「小中一貫教育」というキーワードでグーグルで検索するとたくさんのサイト(文部科学省、国立教育政策研究所、市町村等)が出てきて、戦後の6・3・3・4制の学校制度を改変するというかなり大きな議論になっていることがわかる。ただ、それにしては、あまりマスコミや教育雑誌や学会で取り上げられることがなく、不思議に思う。ネットから基本的なことをメモ(転載)しておく。

1 小中一貫教育とは、小学校と中学校の義務教育期間9年間一貫で行われる系統的・継続的な教育のことをいい、小中一貫教育を行う学校を小中一貫校という。小中一貫教育・小中一貫校の制度上の形態としては、義務教育学校、併設型、連携型がある。

2 2016年4月から小中一貫教育として義務教育学校が制度化された。また同時に併設型、連携型における教育課程の基準の特例が施行されることになった。

3 品川区では、平成18年度から全ての区立小・中学校で、小中一貫教育を実施している。『施設一体型』『施設分離型』の大きく2つのタイプに分けることがでる。

4 4・3・2や5・4といった学年区分が広く多くの学校で取り組まれるようになっている。

5 教育の効果については、中学生の不登校出現率の減少、全国学力・学習状況調査における平均正答率の上昇、児童生徒の規範意識の向上、異年 齢集団での活動による自尊感情の高まり、教職員の児童生徒理解や指導方法改善意欲の高まり等の意識面の変化といった結果が得られている。

  6 小中一貫教育・小中一貫校のデメリットとして、中高一貫教育との整合性が取れない、小学校高学年でリーダーシップや自主性が養われなくなる、人間関係が固定化しやすいなどが挙げられる。中学校の目新しさが失われてしまう。小1と中3は差がありすぎる。中学生の悪い影響を受ける。学年数が増えて施設利用の調整が必要に。小学校卒業の達成感がない・薄れる。小学校高学年のリーダーシップや自主性が養われない。人間関係が9年間固定化しやすい。他の学校に移るときに苦労する。学校が巨大化し目が届きづらくなる恐れ。学校統廃合に利用される恐れがある。

  7 文部科学省(「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」平成24年6月25日)や国立政策研究所(「少中一貫教育の成果と課題に関する調査研究」平成27年8月)や各地区の実践報告が数多くある。

以上から、検討のフレームワークとして、1 人口減少、学校制度といったマクロな視点 2 学校経営の視点―管理職、地域との関係、部活動、進路指導 3 教師の視点―免許、負担増、得意不得意、教師―生徒関係 4 児童・生徒の視点―通学、教科、部活動、先輩―後輩関係、問題行動(非行、いじめ、不登校)などをあげることができるであろう。