藤崎春代「子どもの発達から教育を考える」(『教育の基礎と展開』第3章、学文社、2016年)の中に、幼稚園児の園の授業風景のことが書かれている。
幼稚園児たちは園で2つのことを学ぶ。1つは、「教室での学習場面の成立を可能にする教室ルール」(具体例で上がっているのは、挙手―指名のルール)。
もう一つは、「二次的ことば」を使うこと。「二次的ことば」とは、「一次的ことば」(=「具体的な事例について、状況の文脈に頼りながら、親しい人と直接対話によって展開する言語活動」)とは違い、「状況の文脈を離れ、抽象化された聞き手一般を想定し、話の筋は自分で調整し、ことばの文脈で使うことば」である。つまり二次的ことばとは、教室での発言や発表の時使うことばを身に付けるということである。
幼稚園児が園で学ぶこの二つのことがらのことに思いを馳せると、今の大学生はこの二つのことが学べているのかどうかと疑問に思う場面に出会うことがよくある。
第1の「教室ルール」でいうと、大学の授業という場で、私語やスマホいじりが頻繁にみられることである。これは、3歳の園児がまだ幼くて、教室で今なされていることやルールを理解できず、自分の好きなことをやってしまうのに似ている。3歳児でも教室ルールを理解しそれに従うことのできる子もいるので、私語やスマホいじりをしている大学生は、それが理解できない3歳児以下の能力しかないともいえる。
第2の「二次的ことば」でいえば、学生を指名して発言を求めても、無言か、友達に話すような小さなつぶやきしか返ってこないことが多い。これも3歳児が学ぶ「二次的ことば」がまだ身についていない証拠と思えてしまう。
大学は自由な場であるが、その自由は、無知からくる幼い子と同じ行動をすればいいということではない。大学生には大学生の発達段階にふさわしい行動があるはずである。