授業の中で、日本の伝統的なしつけについて説明する時がある。その時、よく資料として使うのは、ハルミ・ベフ『日本―文化人類学的入門』(教養文庫,1977年)IMG_20160507_0001
子育ての日米比較が,文化人類学的な参与観察から鮮やかに記述されている。 あやし方の方の日米比較(アメリカは子どもに身体的な刺激を与えたり話しかけたりするのが多いのに対して、日本の母親は子どもを静かにゆすってあやすなど)の他、アメリカの母親は厳しく子どもをしかり子どもにとって母親は怖い存在でもあるのに対して、日本の母親は極力母親が子どものストレスの対象にならないようにする。 叱るときにも「超自然的な制裁の脅威,たとえばおばけ、人喰い鬼、悪魔などがでて来ていうことを聞かない子をおどすとか、神様のばちがあたるとかいう」と説明されている。
現在も、日本の子どもの絵本には、おばけに関する本がたくさんある。このように、親が脅威やストレスの対象にならないしつけは受け継がれているようだ。
今日(6日)の朝日新聞にも、そのような記事があった。
「寝ないとオバケが出るぞ…怖がらせるしつけっていいの?」(朝日新聞2016年5月6日朝刊より一部転載) <わあ、もう夜10時だ。3歳のわが娘はベッドにも行っていない。「もう寝る時間でしょ」と怒るとグスグス泣く。こんな時に一言。「あ、オバケがあそこに」。サッと表情が変わってベッド行く」とボソリ。効果てきめん、助かった。だけど、こんな脅しみたいなしつけで本当にいいの? 母子手帳を開くと、育児の解説があった。3歳ごろの叱り方について「なぜいけないのかを丁寧に伝えましょう」と書いてある。怖がらせて言うことを聞かせるのは、きっと違う。 でも、世間の親たちも困っているみたい。言うことを聞かないと恐ろしい形相のオニから電話がかかってくるスマホアプリがはやったり、生々しい地獄絵で「悪いことをするな」と説いた絵本がしつけに効くと話題になったり。共にここ数年のことだ。 「なまはげを例に考えてみましょうか」。大日向雅美・恵泉女学園大学長(発達心理学)は、「泣ぐ子はいねがあ」と、恐ろしい化け物に扮して家々を回る民俗行事で説明を始めた。 「子どもはなまはげが来るとおびえますが、両親や祖父母がそばでぎゅっと抱きしめてくれます」。悪いことをすることへの怖さを教えると同時に、守ってくれる身近な人への信頼感が増し、「この人の言うことは聞かなきゃ」となる。巧妙な構造だというのだ。 「食べちゃうぞ、というような意味に由来する『ガモ』『モウコ』などの妖怪は、各地に伝わっています」と民俗学者の飯島吉晴さんは教えてくれた。暗くなって子どもがぐずつくのを止めようと、妖怪を持ちだしたというのだ。 この世のものでない存在を通じたしつけを「自己中心的でない世界観が育まれる」と飯島さんは評価する。(宮本茂頼)