大学教師は本を読むのが商売なのに、私の場合、歳のせいか忙しさのせいか、本を読む時間が急激に減っている。同じ年代の人でも読書力が衰えていない人がいるので、歳のせいにするのは、言い訳に過ぎないであろう。
同年代の水沼文平さんの読書量はすごい。いつも暇があると本を読んでいる。最近読んだ本の感想を送っていただいたので、本人の了解を得て、掲載させていただく。
加村一馬著「洞窟オジさん」(小学館文庫)
著者(主人公)は私と同じ昭和21年生まれ。中1の時、両親の虐待から逃れ足尾銅山の廃坑を根城に愛犬シロとサバイバル生活に入る。ヘビ、カエル、ウサギなどを捕まえて命を繋ぐ。数年経ってシロが死ぬ。ひもじさよりも寂しさに苛まれる。山や川を転々とし山菜や川魚を売ること覚え世間との接触が始まる。お金、売店、バナナ、公衆電話、バイクなどとの初めての出合いと驚き。野生が生んだ目の険しさを世間の人は恐れたが、世間を最も恐れていたのは本人だったという「世間と特殊」の構図は司馬遼太郎の「文明と文化」を思い起こさせた。映画で主人公を演じるリリーフランキーとの対談も面白かった。
小松みゆき著「ベトナムの風に吹かれて」(角川文庫)
ベトナムで日本語教師をしている著者が新潟に住む82才の認知症の母親をベトナムに引き取る。ばあさんとベトナムの人々との交流を描いている。ばあさんの越後弁「おらほ」「ほげな」など私の故郷(仙台)と同じものがあり親しみを覚えた。
堀川惠子著「チンチン電車と女学生」 (講談社文庫)
原爆の3日後の広島で女学生が運転する電車が動き出したというセンセーショナルな本。8月21日に江田島から宇品港に上陸したМ先生(東大名誉教授)もその「チンチン電車」を見たかも知れないと思いお尋ねしたら案の定、M先生はその電車を目撃していました。
М先生のメールです。
【「チンチン電車と女学生」の存在をご教示頂き、有難うございました。さっそく入手し、読了しました。 私たちが江田島から宇品について広島駅に向かう途中にすれ違ったチンチン電車の運転手は女性だったのを覚えています。と同時に、無機的な原爆の荒野を、まがりなりにもチンチン電車が動いていることに驚きました。運転していた女性が私たちより年下の女学生だったとはさらに驚きです。また、この女学生たちの、生い立ちや、原爆被爆の様子や、戦後を生き抜いた有様を知ることができました。もちろん原爆で亡くなった運転手女学生も多かったのではと思います。また、8月6日に運行中の電車の被爆状況や、最初に復活した電車経路の状況も貴重な文献です。】