伝統的な学問分野と新興の学問分野は、時に軋轢、対立を起します。伝統的な学問分野は自分達の既得権を守ろうとして、新興の学問分野に関して、自分達の基準から判定して学問としての要件を満たしていないと決めつけます。
私の専攻の「教育社会学」も初期の頃は、伝統的な「教育学」及び「社会学」から、ひとつの学問分野として認めないという攻撃を受け、必死に戦かったということを、私達の先生や先輩達から聞かされて来ました。
教育社会学が、教育という研究対象を、社会学の方法で分析する学問であるのなら、社会学の一分野でいいはずで、わざわざ教育社会学という分野を主張したり、学会(http://www.gakkai.ne.jp/jses/)を作ったりする必要はないわけです。それに甘んじない訳は、研究対象の「教育」の特質にあります。教育は、価値的なものを含み、また実践も重んじます。そのような価値的、実践的な教育を対象にするために、その研究方法も、社会学を基盤にしながらも、それとは違った独自なものを探求してきました。
教育社会学が、学問のひとつの分野として外から認められるようになってからは、内部でその方法論に関して、伝統派と新興派の論争がありました。たとえば、エスノグラフィーの研究論文が学会誌に最初に投稿された時、その評価が真っ二つに割れたことがあります(一人の審査員は10点満点で9点、もう一人は2点)。
教育社会学の学問的性格として、自己の立つ基盤を自己「反省」するという特質(新しがり?)があるため、伝統派も新興派の方法論を取り入れ自己革新を図り続けていますので、大きな対立には至らず、共存がはかられています。
価値的、実践的分野の研究には、学際性も大事になっています。それは社会学や文化学におけるカルチュラル・スタディーズのように、さまざまな方法論を許容、共存する研究分野のように思います。
私の属している「日本子ども社会学会」(http://js-cs.jp/)は、子どもをめぐる学際的研究の学会として18年前に発足しました。そこには、保育学、児童学、心理学、教育学、教育社会学、教育心理学、社会教育学、社会福祉学、文化人類学、現場の教員達が参集し、子ども、子ども社会のことを、さまざまな立場から発表し、討論する場です。子どもというファジーなまた価値や実践も含む分野を研究、そして教育や保育実践をするためには、既存の学問分野を超えたあるいはそれを融合した視点や研究、討論が必要になっています。
私は他に「日本高等教育学会」や「異文化間教育学会」にも入っていたことがありますが(前者は今も)、その2つの学会も学際的で、いろいろな分野の人が集まり、活発な議論が交わされていました。
大学で教える科目も、自分の専攻だけでなく、学際的な分野を担当してみると、面白いかもしれません。私も、上智大学勤務時代、「多文化教育」という科目を、3年間担当し、いろいろな本を読みそれを紹介し、毎年50名以上の受講者がいて、自分の専門の「教育社会学」の授業より好評でした。今年は、敬愛大学で、「こどもと地域の教育」というはじめての科目を担当し、この分野に関して学びつつ、教えています。学生の反応はいかに?