昨日(22日)は放送大学のいい番組を見た。それは特別講義「自然災害では死なせない ~ある災害社会工学者の格闘~」である。10月6日(日)の再放送のようであったが、防災教育のことや今の教育の問題をいろいろ考えさせられた。
【番組内容】は、次のようなものである[番組紹介から転載]
< 東日本大震災の際、注目された「釜石の奇跡」。地元の中学生らが大津波から逃れ、自主的に避難した行動が高く評価された。中学生がそのように行動できた背景には、群馬大学大学院の片田敏孝教授が8年間にわたり地元で行ってきた防災教育がある。近年、国内では南海トラフを震源域とする地震が懸念されているほか、台風による被害や竜巻被害、集中豪雨などの自然災害も相次いでいる。自治体からの防災情報の出し方や住民の避難の仕方などを専門に研究する同教授は現在、全国各地で1年間に250回を超える講演を実施。それぞれの地域の実情に即した防災を提言し、自治体などの対策に協力を惜しまない。 「自然災害では死なせない」が同教授の信念。>
片田教授が子ども達に説く3つの提言は説得力がある。
① 「想定にとらわれるな」―相手は自然。何が起きてもおかしくありません。ハザードマップで浸水しないと示されているからといって安全だと思いこむことは大きな落とし穴です。
②「ベストを尽くせ、最善を尽くせ」―自然は何を引き起こすかわからないからこそ、自身が置かれた状況下で常に最善を尽く。
③ 「率先避難者になれ」―だれか1人でも率先して避難しようとすると、多くの人々もそれにつられるように行動を始めるというのが人間の心理。自分の命を率先して守ることで、実は周りの多くの命を守ることにつながる。
東日本大震災の際、岩手県釜石市の小中学生ほぼ全員約3千人が防災教育の成果を生かし、津波から避難できたのは、この片田教授の長年の指導のおかげで、「釜石の奇跡」と言われる。(http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130312/wlf13031202000000-n1.htm)
片田教授は、著書に「人が死なない防災」(集英社新書)があり、防災教育を進める際に、災害が起こると怖いというような「脅しの防災教育」ではなく、津波が来たら何が起きるか現実は直視すべきで、それは具体的にどう行動するかを考えること、と述べている。たとえば「釜石という町に住むこととはどういうことか」という話から始め、海の幸豊かで、風光明媚な、このすばらしい釜石に住むためには、時には大津波を避けることも必要だと言っている。
この片田教授の論で興味深いと思ったのは、行政や学校からの上から防災教育ということではなく、児童・生徒そして住民も、行政や学校と同じ水準で防災(教育)に関わるつまり責任があるというスタンスである。児童・生徒そして住民も自分の判断で主体的に防災行動に向かうという姿勢である。行政は緻密なハザードマップを作り、学校は考え抜いた防災対策をする必要があるが、子どもたちはそれに頼ることなく自分の判断で行動する主体性を持つことが求められる。
これは、防災教育だけではなく、教育のすべてのことに言えると思った。上の組織や人間は優れた制度や基準を作る責任があるが、下の人間も自分で主体的にかかわる責任がある。何か惨事や失敗が起こった時、その責任は両方にあると考えられるべきであろう。
これは高等教育に関しても言えて、大学改革の成否の責任の一端は、行政や大学や教職員だけでなく学生にもあるといえよう。