社会学研究者の嗜好

社会学は社会の主流に対して批判的な見方をとり弱者の味方になり、権力者や上流階層を批判する傾向がある。しかし一方で、上流階層の育ちの良さにコンプレックスと羨望を抱いているのではないか。若い社会学研究者の書いた「率直な」コラムを読んで、そのように感じた。

<私は、ある親族の言葉を借りるなら「田舎の土地成り金の家」で生まれた。東京に進学し、自分がある種の品性に欠けることは痛いほど分かった。私が知り合った人々は、性により役割を隔てず、差別的な言葉を使わず、多少不便を被っても社会の歪(ゆが)みに苦しむ人々の力になろうとした。そんな「リベラル」な人に出会うたびに、利便性を追い求め贅沢(ぜいたく)を好む、利己的な自分の成り金趣味、さらに言えば育ちの悪さを痛感させられた。(中略)関西に移り、都内に出張した際はホテルに泊まることも増えた。ホテルは、日常をすべて非日常に変え、人々を徹底的に消費者として過ごさせる。とりわけ高級と言われるホテルほどその性格は強い。(中略) 特によく過ごす四ツ谷のホテルは、スタイリッシュな外資系ホテルなどとは異なり、豪華ではあるもののどこかレトロな雰囲気があって田舎者の自分にも親しみやすい。(中略)客室係の方との世間話や部屋に置かれた小さな贈り物は、私の虚(むな)しさや慌ただしさを一瞬和らげ、チェックアウトまでの間、心に静けさをくれた。(富永京子 時には「政治」を離れて、朝日新聞 2020年2月1日 夕刊より一部転載)