オーストラリアという国について

 私たちはアメリカやヨーロッパ諸国、あるいは中国や韓国のことは学校で習ったりニュースでみたりするので比較的よく知っているが、その他の国のことはあまり知らない。オーストラリアについても同様である。
 たまたまオーストラリアに関する本を読み(杉本良夫『オーストラリア―多文化社会の選択―』岩波新書2000年)、その国の制度や文化の特質を知ると同時に、日本との違いに驚き、また日本の特異性を思った。 読書メモを残す。

・オーストラリアでは、新しく国籍を取得したからといって、出身国の国籍を放棄する必要はない。問題は出身国側の規定がどうなっているかによる。(日本、韓国、北朝鮮、中国は2重国籍を認めない)
・オーストラリア国籍を取得していながら、英語なしで日常生活に事欠かない人たちがいる(ギリシャ系コミュニティで生活する人など)。オーストラリアの文化は無限に存在する。
・オーストラリアの人口の約6割が、異なる民族の組み合わせから成り立っている。5人に3人は混血児(カプチーズ・キッズ)。日本からの「ワーホリ・ブライド」も多い。
・移民を受け入れに当たって点数制を採用している。英語、年齢、国が必要としている技能などの総合点がある得点以上を移民として受け入れる、という市場方式をとっている。
・差別されている側の人たちが、自分たちに向けられた差別表現に全く逆の肯定的な意味を持たせることによって、差別を笑い飛ばしてしまうという例もある(「ウォグ」など)
・「民族文化」は多くの場合、その中身を定義する人に都合のいいようにステレオタイプ化されている。国の中で地域、職業、性別、学歴、会社規模による文化差も大きい。また文化は常に変化する。
・オーストラリアでは、同性愛の人たちは、子どもがいない、収入が多い、ライフスタイルにお金を惜しまないなど、不動産業者にとって大変なお得意さんになっている。
・オーストラリアでは、ジェンダー・ニュートラルな子育てが当たり前になっている。
・オーストラリアでは、戸籍制度がない。20代のカップルのうち、法律婚をしている人たちは6割に対して事実婚をしている人は4割である(同居関係が1年以上になると事実婚とみなされる)。30代前半では、法律婚と事実婚の比率は9対1となる。結婚式より銀行の共同名義口座の開設の方が新しい門出の象徴になっている。事実婚でも、二人が別れる時、財産の分配は法律婚と同じ原則で行われる。
・(大学の)授業料は大学卒業後、働いて払う。給料の3%から6%が差し引かれる。
・若者の多民族主義と男女平等主義は相関している。
・戸籍制度がないから夫婦別姓は法律的に問題になることはない。子どもができれば、両方の姓をハイフンで組み合わせるハイフン・キッズ(例 ブラウンースミス)にする場合も多い。
・戸籍制度がないだけでなく、住民票のシステムもない。引っ越しても役所に出頭する必要もない。日常的に必要なサービスをしている所(学校も含まれる)へ連絡を取るだけでいい。

どこでも戸籍や住民届があるのが当たり前と思っていたがそうではないようだ。戸籍のある国、2重国籍を認めない国(日本もそう)は少数だと知った。

私たちは日本で日常的にあることはどこの国でも同じと思いがちだが、そうでないことも多い。外国の制度や文化を知り、日本のことをもう一度考え直すことも重要である(比較文化的視点)。
オーストラリアは多文化共生をいち早く進めた国であり、これからの日本の社会の在り方を考えるのに参考になる。

<追記>上智大学の卒業生よりオーストラリアに関して、下記のコメントをもらった。

 先生の読書メモを読んだだけで、ほとんど読んだ気になれます。知られていない知見が多いですね。(別の本ですが)杉本良夫『日本人をやめる方法』はベストセラーで、90年代には大学入試現代文でもよく出ました(早大など)。
 上智の外国学部英語学科にオーストラリア社会を専門にしているジャックス・ マイケル先生がいて、オーストラリアに関する授業も担当しています(下記が授業内容)。
Australian Studies
We explore together a range of social, political and cultural issues, discourses and their relevance and meaning for contemporary Australia and beyond: for example, Aboriginal history and Australian history, indigenous issues, land and environment, the shift from White Australia to Multi-ethnic Australia, cultural diversity, immigration, citizenship and national identity debates, Australia in Asia/Asia in Australia, the Australia-Japan relationship, globalization and evolving Australian identities. We pay particular attention to the transnational forces that are influencing and shaping these issues.

岩波新書の山中速人『ハワイ』もオススメです。ご参考まで。