「持続可能な開発のための教育(EDS)」とキャリア教育との関連について

EDS (Education for Sustainable Development)に関しては、教育関係の議論ではよく出てくるが、どういう訳か教育社会学で話題になることがほとんどない。平成30年に出版された「教育社会学辞典』(丸善出版)では、永田佳之氏が小項目で2頁(766-7頁)書いているだけで、索引でも3箇所で言及があるだけである。EDSはあまりに理想論的過ぎて、現実的な社会学的な考察に馴染まないのであろうか。現在の世界の子どもが直面している深刻な問題(戦争の犠牲)に関しても、何もできていないことなど。

 ESDに関しては、文部科学省国際統括官『持続可能な開発のための教育(ESD)推進の手引)』(令和3年5月改訂、平成28年3月初版)という報告書があり、それをWEBで読んでみた。https://www.mext.go.jp/content/20210528-mxt_koktou01-100014715_1.pdf

その中に、EDSは、「地球規模の課題を自分事として捉え、その解決に向けて自ら行動を起こす力を身に付けるための教育」とあり、これはまさに、現代のキャリヤ教育に求められることではないかと思った。そこで、文部科学白書の平成5年版(https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab202001/mext_02820.html)でキャリ教育に関して書かれている箇所を参照してみた。しかし、そこにはESDのことは何も書かれていなかった。そこで、仕方がなく(?)、生成AIに尋ねてみた。以下がその質問と回答。EDSとキャリ教育には関連のあると、生成AIは答えている。

問 ESD とキャリヤ教育との関係を教えて下さい。

回答1 Chat GPT―ESD(Education for Sustainable Development)は持続可能な社会を実現するための教育であり、環境問題、経済の持続可能性、社会の公平性など、広範な課題に対する理解と行動を促進します。具体的には以下のような要素が含まれます。環境教育、公民教育、グローバル教育、経済教育、文化理解。/ キャリア教育は、個人が職業生活において成功するための知識、スキル、態度を身につけることを目的としています。具体的には以下のような要素が含まれます。職業理解、職業選択のスキル、職場でのコミュニケーションスキル、自己理解と自己評価./ ESDとキャリア教育は、以下の点で関連しています。①共通の目標: 両者は共に個人の成長を促し、社会に貢献できる市民を育成することを目指しています。持続可能な社会の実現や、個々人のキャリアの成功は、社会全体の幸福や持続可能性に直結します。②スキルの重複: 両者は、批判的思考、問題解決能力、コミュニケーション能力などの共通のスキルを育成します。これらのスキルは、持続可能な社会の課題に取り組む際にも、職業生活においても重要です。③社会的・経済的文脈の理解: ESDは持続可能な発展に関する広範な理解を促進し、キャリア教育はその中での職業選択やキャリアの意義を理解する手助けをします。例えば、再生可能エネルギーの分野で働くことが環境問題の解決に寄与するという理解は、ESDとキャリア教育の交差点です。④ 持続可能なキャリア: 持続可能な発展を考慮したキャリア選択や企業活動が増えています。これにより、キャリア教育の中でESDの視点が取り入れられることが求められます。。持続可能なビジネスモデルやグリーンジョブなどの概念は、その一例です。/ESDとキャリア教育を統合することで、持続可能な社会の実現に向けた教育が充実し、個々人のキャリア形成にもプラスの影響を与えることが期待されます。

回答2―Bingチャトの回答 -ESD(持続可能な開発のための教育)とキャリア教育は密接に関連しています。/ESDは、持続可能な社会を築るために必要な知識、スキル、態度を育む教育です。具体的には、環境、社会、経済の側面を統合的に理解し、課題解決能力を養うことを目指しています。ESDの導入により、学習スタイルが体験、探究、問題解決に重点を置いたものに変化し、学習者主体の参加型の学習が促進されています。/キャリア教育は、生徒が自己理解を深め、職業選択や進路決定に向けた準備をするための教育です。将来の職業やキャリアについての情報提供やスキルの習得が含まれます。/ESDとキャリア教育は、持続可能な社会を築くために必要なスキルや価値観を育む点で共通しています。ESDとキャリア教育は、持続可能な社会を実現するために連携し、相互補完することが求められています。ESDの目標に関連付けたキャリア教育の実施は、ESDの目標達成に向けた授業開発となり得ます。総じて、ESDとキャリア教育は、持続可能な未来を築るために協力して取り組むべき重要な教育領域です。

新井郁男著『教育に”ひとこと”』を読む

 上越教育大学名誉教授の新井郁男先生より最近の御著書『教育に“ひとこと”』(時事通信社、2024、8.1)をお送りいただいた。これは、新井先生が1976年から最近まで47年間に、内外教育の「ひとこと」の欄に書かれた論稿から選んで、1冊の本にされたものである。現代の教育問題に関しては、幅広く深い視点から考察され、新井先生の博学でユニークな視点から考察されたものばかりで、考えさせられる内容が多い。たとえば、下記のような内容が書かれている。

①学習指導要領には、法的拘束力があることを、1976年の最高裁判決が認め、その際「最低限の基準と考える」ということと「教育政策上の当否はともかくとして」いう記述を残している〈96-7頁〉。② 生涯学習においては、個人の生涯にわたる学習という個人的な意味だけでなく、それを保証するソーシャルキャピタル(社会関係資本)の構築が必要である(108-9頁)。③ ESD(Education for Sustainable Development)は、社会の持続的な発展のためには、開発はどうあるべきか考え、実践するための教育。(したがって)、「持続可能な開発の為の教育」と訳すべき。(116-7頁)④  (学力評価)は、個人の「不足している部分」を調べているが(100点からの減点)、個人の「保存部分」(個性的能力)への働きかけがあってもいいのではないか(100点以上の評価があってもよい)。(118-9頁)⑤  J.デュ―イは、1938年の著作で、継続性(continuity)のあるexperience が重要だとしている。これは即時的な報酬ではなく、後の経験につながるものである。これが体験に相当する(120-1頁)。⑥ 習熟度別指導の効果は、上位と下位クラスの点数の差の増減を見るのではなく、それぞれのクラスが点数がどれだけ増減しかかを見るべきである(66-7頁)。

 さらに新井郁男著『教育展望セミナー第38回~52回 新井郁男 基調提案集-15年の軌跡』(教育調査研究所 2026年6月)、には、内外教育の短い「ひとこと」では書けないことが、詳細に書かれている。合わせて読むと、新井先生の教育論(教育社会学的考察)がよく理解できる。