「予言の自己成就」という社会心理学の用語がある。嘘であっても予言すると、それがものにその通りの現実が出現するというものである。たとえとして、銀行が潰れそうという現実がなくても、「銀行が潰れると」という嘘の噂により、人々はお金を引き出しに行き、現実に銀行が潰れてしまうがよくあげられる。他の例として、高名な心理学者が、学校の教師に「この子たちの能力は高い」とランダムに選んだ子どもたちの名前をあげると、教師がその子に期待し、実際その後その子たちの成績が上がってしまうという「ピグマリオン効果」もそれにあたる。さらに社会学の実証主義に対する「構築主義」の立場も、実際(現実)より人々の思い込みが社会を動かすという立場をとる。
上記の理論や例から、現実より人々の思い込み(虚構)が社会を動かすという示唆が引き出されることが多い。しかし、その悪用や行き過ぎには注意すべきであろう。現実より虚構が、世を動かすことはあるが、それがあくまでも付け足しであって、現実が一番大事ということを忘れてはいけない。そのことを内田樹の最近(9月1日)のブログを読んで思った(下記に一部転載)
<安倍政治を総括する/ この10年間で日本の国力は劇的に衰えた。経済力や学術的発信力だけではない。報道の自由度、ジェンダーギャップ指数、教育への公的支出の対GDP比ランキングなどは「先進度」の指標だが、そのほとんどで日本は先進国最下位が久しく定位置になっている。/ 安倍時代が残した最大の負の遺産は「国力が衰微しているという事実が隠蔽されている」ということだろう。/ 政策の適否を考量する基準は国民の「気分」ではなく、客観的的な「指標」であるべきなのだが、安倍政権下でこの常識は覆された。/ 安倍政権下で政権担当者たちは「成功すること」と「成功しているように見えること」は同じことだと本気で信じ始めていた。/ 東京五輪の強行に際しても、「感染症が効果的に抑制されているように見せる」ことが優先された。それを有権者が信じるなら、それ以上のことをする必要はないと思っていたのだ。>( http://blog.tatsuru.com/)