アウトプットの多い人(よく本や原稿を書いている人)が、インプット(読書量や人の話を聞いたりすること)が多い人のような気がする。
日本近代文学が専門で多くの著書のある石原千秋(早稲田大学教授)は、毎月の新聞や雑誌に多く目を通し、毎月の書籍代も含め、かなりのお金をつぎ込んでいると書いていたのを読んだことがある。
作家の村上春樹も、多くの小説、評論、翻訳本を出版しているが、地下鉄サリン事件の被害者にインタビューしてその記録を『アンダーグラウンド』に、加害者にインタビューして『約束された場所で』に残している。*
私が時々ブログを読む思想家の内田樹に関して、3月10日の朝日新聞朝刊に紹介記事があった。内田樹は「弟子上手」(「知識や偏見にとらわれず、誰に対しても心を開き教えを請う姿勢を持つ」)で、「分野を問わず専門家の懐に飛び込み、知識と視点を授かる。その蓄積がジャンルの境界を超えた論考につながる」と書かれていた。(下記に一部転載)。氏の幅広い、柔軟な思考はこのようなところから来ているのかと納得した。
(一語一会)哲学者・内田樹さん■おまえは「弟子上手」だよな/ 専門の哲学や文学にとどまらず、政治や教育、映画と縦横無尽な発信を通じて読み手の知的好奇心を刺激してきた。/十数年前、友人も含めて年に数回集まるようになっていた箱根温泉の宿で、その徹さん(兄)にふと言われたのがこんな言葉だった。「おまえは『弟子上手』だよな」 知識や偏見にとらわれず、誰に対しても心を開き教えを請う姿勢を持つことは容易ではない。それに抵抗なく、至るところに「師匠」を作る弟の生き方にしみじみ感心する、そんな口ぶりだった。一緒に酒を囲んでいた友人たちも「おお、そうだ」とうなずいた。「なるほど言われてみればと。自分のありように気づかせられ、足場を固めてくれた。そんな言葉だったように思います」/ 分野を問わず専門家の懐に飛び込み、知識と視点を授かる。その蓄積がジャンルの境界を超えたしなやかな論考につながっている。「自我を強化するのではなく、人に聞くことを通じて『自己解体』を繰り返す。それが私にとっての勉強であり、何よりも楽しいのです」/1950年東京都生まれ。神戸女学院大学名誉教授
*追記、上記とは関係がないが、村上春樹のラジオ番組の紹介が、あったので、転載しておく。
村上春樹さん、18日に反戦ラジオ…特別番組「戦争をやめさせるための音楽」/ ロシアのウクライナ侵攻を受け、作家の村上春樹さん(73)が18日、TOKYO FMの特別番組「村上RADIO特別版 戦争をやめさせるための音楽」(全国38局ネット)に出演する。反戦歌や命の大切さを伝える洋楽を流し、自ら訳した歌詞も紹介、悲惨な戦争の停止と平和の尊さを訴える。独裁的な国家指導者ら権威主義の危険も語りかける。 番組では、村上さんが所有するCDやレコードから約10曲のプロテストソングなどを選び、歌詞や時代背景を詳しく紹介する。村上さんは「ウクライナで誰も望んでいない戦争が始まってしまいました。音楽に戦争をやめさせることができるか? たぶん無理ですね。でも聴く人に『戦争をやめさせなくちゃ』という気持ちを起こさせることは、きっと音楽にもできるはずです」と心境を明かしている。 同局の延江浩プロデューサー(63)は「村上さんの言動は海外からも反響が大きい。村上さんの選曲とメッセージが広く伝わって心を打つと思う」と話している。 放送は18日午後11時から55分間。(読売新聞 2022/03/16)