敬愛大学「教育原論」第10回(6月21日の)の記録

教師に関して、特に最近話題になっている教師の多忙化に関連して、資料を読んで考えていただきたいと思います。4つの資料をお配りしています。

第1は、東京都教育庁がこれから教師を目指す人向けに作ったパンフレットの「小学校の一日」です。そこから具体的に教師の学校での1日をみてください。朝の挨拶、出欠、欠席の子どもの保護者に電話、授業、校庭で児童と一緒に遊ぶ、授業、給食指導、授業、児童と一緒に清掃、帰りの会、校務分掌、学級事務、学年会等、教師の1日は休む間なく、夜まで続きます。ここから教師の仕事内容、なぜ教師は多忙なのかを考えてください。「中休みには、校庭で児童と一緒に遊ぶようにしましょう」「児童と一緒に食事をする」「児童と一緒に清掃」と、遊び、食事、清掃にも教育的な意味があるとし、教師が指導するこが奨励されています。

第2に、新聞記事「教員 進まぬ改革」(朝日新聞6月20日、朝刊)から、日本の教師の仕事の特質を考えてください。他の国と比較して、日本の教師は何に費やす時間が多く、何に費やす時間が少ないのでしょうか。日本の教師は世界の教師の平均と比べ、「課外指導」と「事務業務」の時間が長く、「職能形成」の時間が少ないことわかります。研修の時間が少なく、教師の力量が問われる「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の指導が極めて少ないことが数字で示されています。

第3に、恒吉僚子「人間形成の日米比較」(中公新書)から、日本の学校や教師の指導の特質を考えてください。これは、エスノグラフィー(参与観察)という方法で、日米の小学校の学校や授業の様子を比較したものです。アメリカが教師の指示、授業中心、個別化、外在化という特質があるのに対して、日本は日直や係の指示、いろいろな活動に教育的意味の付与、集団行動、内面的な感情や動機に訴える(自発性)という特徴があることがわかります。日本も,教師の仕事を分業化・外部化してアメリカ化しようとしています(「チームとしての学校」等)。

第4に、本田由紀『軋む社会』という本から、教師の忙しさは、「経済合理性」「集団圧力系ワークホーリック」「自己実現系ワークホーリック」のどれで、説明できるか考えてください。以上、4つの観点から教師の現状や多忙化を考えてください。

教育原論リアクション(第10回、2019年6月21日) 教師について                                                               1 前々回(6月7日)・前回(14日)リアクションを読んでの感想 2 日本の「学校の一日」(東京都教育庁)から教師の仕事を考えよう(教師の仕事内容、なぜ教師は多忙なのか、等)3 新聞記事「教員 進まぬ改革」(朝日新聞6月20日)から、日本の教師の仕事の特質を考えよう(何に費やす時間が多く、何に費やす時間が少ないか)4 恒吉 子「人間形成の日米比較」から、日本の学校・指導の特質をあげなさい。5 教師の忙しさは、「経済合理性」「集団圧力系ワークホーリック」「自己実現系ワークホーリック」のどれで、説明できるか(本田由紀『軋む社会』参照)6 他の人のコメントをもらう。

小中一貫教育について


以前に私立の中高一貫校に対抗して公立の中高一貫校ができて、その是非をめぐって教育社会学者も意見を述べていて、学会でも論議があったように思う。私も県立の千葉高が2クラスほど中高一貫になり、視察に行ったことがある。

最近は、その議論を聞かなくなったと思ったら、今は小中一貫教育が問題になっていることを知った。小中一貫教育に関する法律までできて、いくつかの市町村で先進的な試みがなされているようだ。

「小中一貫教育」というキーワードでグーグルで検索するとたくさんのサイト(文部科学省、国立教育政策研究所、市町村等)が出てきて、戦後の6・3・3・4制の学校制度を改変するというかなり大きな議論になっていることがわかる。ただ、それにしては、あまりマスコミや教育雑誌や学会で取り上げられることがなく、不思議に思う。ネットから基本的なことをメモ(転載)しておく。

1 小中一貫教育とは、小学校と中学校の義務教育期間9年間一貫で行われる系統的・継続的な教育のことをいい、小中一貫教育を行う学校を小中一貫校という。小中一貫教育・小中一貫校の制度上の形態としては、義務教育学校、併設型、連携型がある。

2 2016年4月から小中一貫教育として義務教育学校が制度化された。また同時に併設型、連携型における教育課程の基準の特例が施行されることになった。

3 品川区では、平成18年度から全ての区立小・中学校で、小中一貫教育を実施している。『施設一体型』『施設分離型』の大きく2つのタイプに分けることがでる。

4 4・3・2や5・4といった学年区分が広く多くの学校で取り組まれるようになっている。

5 教育の効果については、中学生の不登校出現率の減少、全国学力・学習状況調査における平均正答率の上昇、児童生徒の規範意識の向上、異年 齢集団での活動による自尊感情の高まり、教職員の児童生徒理解や指導方法改善意欲の高まり等の意識面の変化といった結果が得られている。

  6 小中一貫教育・小中一貫校のデメリットとして、中高一貫教育との整合性が取れない、小学校高学年でリーダーシップや自主性が養われなくなる、人間関係が固定化しやすいなどが挙げられる。中学校の目新しさが失われてしまう。小1と中3は差がありすぎる。中学生の悪い影響を受ける。学年数が増えて施設利用の調整が必要に。小学校卒業の達成感がない・薄れる。小学校高学年のリーダーシップや自主性が養われない。人間関係が9年間固定化しやすい。他の学校に移るときに苦労する。学校が巨大化し目が届きづらくなる恐れ。学校統廃合に利用される恐れがある。

  7 文部科学省(「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」平成24年6月25日)や国立政策研究所(「少中一貫教育の成果と課題に関する調査研究」平成27年8月)や各地区の実践報告が数多くある。

以上から、検討のフレームワークとして、1 人口減少、学校制度といったマクロな視点 2 学校経営の視点―管理職、地域との関係、部活動、進路指導 3 教師の視点―免許、負担増、得意不得意、教師―生徒関係 4 児童・生徒の視点―通学、教科、部活動、先輩―後輩関係、問題行動(非行、いじめ、不登校)などをあげることができるであろう。