教育の目標、教育の目的について

担当している敬愛の授業で学生に、後期の最初なので、教育における目標や目的について、考えてもらった。
教育の目的とは何か、学校の目標を何に定めればいいのか、という質問は抽象的過ぎるので、それをもう少し具体的に、どのような人間になることを目的や目標にするのがいいかと聞いた。つまり、次のような2つの質問をした。
1 自分にとって成長の目的(目標)は何か。どのような人間になりたいか。
2 どのようなことを教育の目的(目標)にするか。つまり、教師になったら、どのような子どもに育てたいのか。
学生(教育こども学科1年生)の回答(42名)を、まとめると、以下のようになる。
質問1 「どのような人間になりたいか」
⓵ 真面目、素直、正直、笑顔、自由な人間、褒められたい、心の強い、当たり前にできる、プラスに考える、流されにくい、強い人間 堂々と発言、自信、責任、社会人(大人)、
⓶ 積極的、新しいことに挑戦、やりたいことを全てやる 、夢の達成、向上、生活自立、常に新しい自分 頑張る、努力、失敗を恐れない、決めたことをやり通す、後悔のない人生
③ 家族でたくさんの時間を過ごす、楽しく幸せな暮らし、人とのネットワーク 広い交友関係、共感できる人間、友情を大切に 優しい,人の気持ちを理解できる、思いやり、気遣い、礼儀正しい、
④人を楽しませる、笑い、博愛主義、周りから必要とされる、信用してもらえる、頼られる人間 信頼される、尊敬される、社会から必要と思われる人間 他人を幸せに。

質問2 「どのような子どもに育てたいか」
⓵正直 個性を伸ばす、夢をもつ、自立、素直、自分の好きなことができる、明るく元気、自主性、芯がある、学ぶ意欲、表現豊か、自分の考え、自信がある 
②他人に迷惑をかけない、コミュニケーションができる、周りを見て行動できる、尊重し合える、皆にやさしい、いじめを起こさない、ものごとを公平に見る、人の話を聞くことができる、礼儀正しい、人にやさしく、自分に厳しく、仲間を大切に、他人の意見を柔軟に受け入れる、
③助け合いのできる子、思いやり、人の気持ちを考える、挨拶ができる、社会で活躍できる

学生の回答を、1を④つに、2を③つに分けたが、基本的には2つで、一つは「自分自身に関わること」、もう一つは「身近な他者とのかかわりに関すること」である。それを、道徳教育の内容項目と対比してみた。
道徳教育の内容項目は、周知のように4つの分野に分かれている。
「自分に関すること」、「他人とのかかわりに関すること」「自然や崇高なものとのかかわり」「集団や社会とのかかわりに関すること」の4つである。
学生の回答をみると、最初の2つがほとんどで、後の2つはほとんど出てこない。
教育者になろうとするものは、最初の2つも大事だが、さらに広い視野をもち、後の2つ(「自然や崇高なものとのかかわり」「集団や社会とのかかわりに関すること」)に関しても、普通の人以上に敏感になる必要があると、説明した。
(上記は少しタテマエ的で、人は結局自分の欲求や利益を追求するもので、それ以外のものが少しでもあればもうけものと考える程度でいい、という社会学的な見方の方が適切ではないかという気もしたが、これは社会学ではなく教育学の授業なので、タテマエを優先した。)

マネーワールドについて

たまたま昨日(6日)に見たNHKスペシャル「マネーワールド1」(▽爆笑問題×資本主義 世界から現金が消滅!? ’新たな通貨‘最前線)がなかなか面白かったので、印象に残ったことを記録にとどめる。(メモも取らなかったので、必ずしも正確ではないが)

⓵ 現在の通貨制度のもとでは、お金の価値は各国の中央銀行によって保障されている。それが、中央銀行がお金(紙幣)を発行し過ぎて、お金の価値が全くなくなっている国もある(ベネゼエラ他)。それに対して、仮想通貨(ビッㇳコイン)は、数学的に(自動的な)計算が信用を支えている。信用を国家にゆだねるより数学にゆだねる方が、安心できる時代が来るかもしれない。
⓶ 現在の日本で現金は家庭と企業に貯めこまれ、市場が回らないことが大きな問題になっているが、それが電子マネー(カード、スマホ、スイカ等を含む)によって、使いやすくなるなり、購買力が高めようと試みられている。また、地域紙幣だが、それに有効期限を設定しているところもある、それだと人々は期日までにお金を使うようになる。
③ 現金はそれを獲得した履歴が残らないが、電子マネーは履歴が残るので、犯罪に会う可能性も低い。電子マネーになれば銀行強盗もなくなる。
④ 新しいお金の考え方が、次々に出ている
A 「時間マネー」というものがあり、それを利用している人も数万人いる。人の持っている時間を、地位や職業にかかわりなく、平等に価値あるものとして、交換する制度である。例えば英会話を1時間教えた人が、料理人から1時間料理法を教えてもらう(ネット電話を使う)
B ネット上の、「いいね」の数も価値を持ち、それが多いものに広告料が入る。これも新しいお金の考え方である。
以上のように、私たちがあまり前と思っていたお金(マネー)のあり方をと問い直すというのは、大変興味深い。今お金(マネー)のあり方の大きな転換期にあるいう。

カズオ・イシグロ・小野寺健訳『遠い山なみの光』を読む

カズオ・イシグロ・小野寺健訳『遠い山なみの光』(2001、ハヤカワ文庫)を読んだ。
イシグロの初期の作品で、文庫で275頁と比較的短く、後半一気に読める。
これで、イシグロの翻訳のあるものはほとんど読んだような気がする。
水沼さんが、そのストリーに関してわかりやすく8月18日のブログに書いてくれている。「彼が日本と日本人について書くのはちょっと無理があるような気がします」という指摘もある。ただ、翻訳者が、会話を当時の日本のまた登場人物の出身などを考量して表現しているので、外国の翻訳という感じはしない。
文庫本の後の訳者あとがきと解説(池澤夏樹)が、とてもよく書かれていて、それ以上の感想を付け加えることはないように思う。

読書メーターhttps://bookmeter.com/books/568342/reviews?page=1&review_filter=none 他、から、いくつか感想を転載しておく。

<今はイギリス人と再婚してイギリスに住んでいる悦子は、終戦後新婚で長崎に住んでいたときのことを回想します。原爆が落ちて、戦争が終わって、世の中の常識が180度変わってしまった時代に、夫と義父と近所に住んでいた女性との関わりの中で思い惑う気持ちが描写されています。物語を読み終わると、淡々と語られている物語の中に悲しみが隠れていた事に気づきます。決して読みやすくはないですが、心にのこる物語でした。>
<A Pale View of Hills by Kazuo Ishiguro 1982 遅ればせながら、著者初読。義父、夫、友人、娘・・時代や関係性、様々な断絶が、靄のかかったようなもどかしさ、寂寥感、そして不気味さを醸し出している。解説で池澤夏樹さんが褒めていたように小野寺さんの訳がとても自然で滑らか。原文はどんなだろう。>
<戦後の長崎で奔放な佐知子に出会った悦子は、当時は彼女の生き方を理解できなかったかもしれないけれど、後にイギリスで次の夫を得た彼女の人生には少なからず佐知子が影響しているのだと思う。多くを描かれない景子、ニキ、そしてその後の知れない佐知子と万里子。存在の見えない悦子のイギリス人の夫。何らかの終着点の見えないまま、常にずっと薄暮のなかにいるようなストーリーで、でも変化や希望が描かれているような……まだまだ初の作家さんなのでよくわからないけれど惹かれてしまう。他の作品を読んでみたいと思う。英語で読めたらいちばんよいのだけれど。>
<解説にもある通り、薄闇の中を手探りで進んでいくような不思議な読書体験だった。佐知子と万里子パートなんて常に不気味で、まるでホラーのよう。しかし物語がどこに向かうのかわからないなりに読みすすめると、読了後、過去のシーンひとつひとつがフラッシュバックして、甘酸っぱいような苦々しいような奇妙な気持ちに包まれた。決して明るい終わりではない。けれど、どこかで時代を生き抜く人間の生命力も感じさせる。不思議な多幸感。今はタイトルの「遠い山なみの光」がとてもしっくりくる。>
<戦争の終結によって、人々の社会的地位や価値観が大きく変わった時代、その中を生きる人々に思いをはせながら、自分の人生を振り返っていきます。常にもやもやとした、薄暗い雰囲気が続くので読んでいて不安な気持ちになります。英国人の書いた日本人の会話を日本語で読むというのは妙な感じです。>
<処女長編だそうで、それもあってか、盛り込み過ぎ!!気になる要素があたら蒔かれてるのに、解決しないことがありすぎて、それで収まりがつけばいいけど、単に書き込みが足りない感じ。>
<全てが原題のごとく、ぼんやりとした風景の中で進行していくのも解説の池澤さん同様小津映画を想起した。佐知子のその後や娘の自殺など語られないこともあるが、決して日本女性のみならず、普遍的に時代も超え、不条理な事の後にも生き続ける生き様を描いたからこそ、評価されるのだろう。>

高校教師調査について

公益財団法人「中央教育研究所」の研究グループで、昨年秋、高校教師に対する調査を実施して、研究仲間と報告書を書いている。
報告書は、「高校教員の教育観とこれからの高校教育」という題で、13章構成で、さまざまな内容を取り上げ、調査票見本、クロス集計、自由記述も掲載したので、かなりのボリームになる。11月に刊行を予定している。
その報告書の予告のような内容の原稿を、新聞に書かせていただいた(下記 添付参照)。
日々多忙で、生徒の為に奮闘している高校の先生方への応援になれば、嬉しい。

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