村上春樹の小説が、1年ぶり(短編小説としては9年ぶり)に出版された。さっそく購入して読む。
村上ワールドは健在だ。
「女のいない男たち」は、「女抜きの男たち」ではなく、「いろいろな事情で女性に去られてしまった男たち、あるいは去られようとしている男たち」(p9)の物語。
男たちにとって、女性の存在はとても大きい。女性がいなくなった世界がいかに空虚な世界なのかが、描かれている。村上春樹らしい恋愛小説である。
登場人物の女性は、皆美しく、知的で、思慮深く、魅力的だ。それに対して、村上春樹の男に対する目は厳しい。男には奥行きの深さ(教養)が、要求される。
「僕の奥さんは意志が強く、底の深い女性だった。時間をかけてゆっくり静かにものごとを考えることのできる人だった」、(妻の恋人は)「たいしたやつではないんだ。正直だが奥行きに欠ける。なんでもない男に心を惹かれ抱かれなくてはならなかったのか」
描かれている主人公の男たちは、素敵な女性に去られてしまって、生きる意欲も失い、死んでしまうものまでいる。その女性が彼のもとを去った理由がよくわからない(つまらない男にひっかかったのかもしれない)。
それでも、男は女性への思いと敬愛を捨て去ることはない。村上春樹は、すごいロマンチストだ。フェミニストと言ってもよい。
最後の2編(「木野」「女のいない男たち」)は、トーンが少し違っている。「木野」は祟りの物語である。猫が去り、蛇が多数出没し、場所が欠けてしまい、悪霊に祟られ、それを払う旅に出る。
「女のいない男たち」は、主題のまとめのようになっていて、文章が村上春樹特有の修辞に充ちていて、感心する。「ある日突然、あなたは女のいない男たちになる。その日はほんのわずかな予言もヒントも与えられず、予感も虫の知らせもなく、ノックもなく、、」
上智大学の仏文科の女子大生(テニスサークルに所属)が、育ちのよいお嬢様の典型として描かれている(p79)のは、少し違うかなと思ったが。