教育社会学Ⅱ配布資料(1月20日)

「キャリアについて考える」参考資料
stage41鈴木美伸
ysuzuki@stage41.com
「教育社会学Ⅱ」受講の皆さんへ
先 週は私の講演を熱心にご聴講戴き、有り難うございました。また、リアクション・ペーパーでのご感想やご質問有り難うございました。全て拝見いたしました が、いくつか選んで返答・コメントさせて戴きます。過日、時間不足からできなかった質疑応答に替えさせて戴きますので、ご参考戴ければ幸いです。

●リアクション・ペーパーへのコメント(「」は皆さんからのご感想&ご質問)
「“社員”は“会社”という団体によって守られているんだと知りました。」
就 社⇒就職⇒就場というのは、社員と会社の力関係で、社員が会社より優位になって就場とお話ししましたが、そのステップは「働き方の熟練度の向上」という言 い方もできます。働くと言うことは、仕事についての専門知識や社会常識を得るというだけではなく、働く技術(お金の稼ぎ方)も同時に向上するわけです。学 生時代に起業や営業のアルバイトでもしていない限り、自分の力で稼ぐスキルというのはゼロですから、会社に雇われて仕事を回して貰わないといけません。つ まり、就社というのは初心者向きの働き方で、フリーランスや起業のように自力で仕事をとってくる働き方は上級者向けだということです。そのため、(日本で は)最初は会社に守られる働き方(就社)から始めるのがリスクが少ないということです。

●「どれだけポジティブでいられるかが、何事においても難しく、・・・そして物事の分かれ目でもあると感じます。」
まっ たくそのとおりではないかと思います。今回、多くの方が「悲観は気分、楽観は意志」という言葉に共感すると書かれておりましたが、私が今年のスローガンで 掲げたとおり、「楽観的である」というのは性格ではなく、「意志」であり「能力」であると思います。今の世相は暗く見えますが、その実態を正しく知ること によって不安は相当に消すことができます。だからこそ、そういった不安に対する「技術」⇒「楽観力」を是非、皆さんに持っていて欲しいです。楽観力はリー ダーに必要なスキルでもあります。しかしながら、戦略のない楽観性は能天気(脳天気? )ですし、行動の無い戦略は役に立ちませんし、楽観性の無い行動態度は他の人から敬遠されますのでご注意下さい。

●「あなたの夢は?と問うばかりではなく、社会の裏にあることも認識するようにした方が、なんとなくフリーターでどうしていいかわからなくなるようなことを減らせるのではないかと思う。」
こ れは「キャリア教育」のあり方について重要な指摘だと思います。キャリアという言葉や概念は海外からのものであり、心理学がその中心になって個人の問題と して取り上げられてきた経緯から、個人の中に問うようなアプローチが始まり、その後、個人と社会の関係(雇用関係 etc.)を問うアプローチが加わって今に至っていると思います。そのため、キャリア教育については心理学者・教育学者から始まり、実務家もキャリアコン サルタントやコーチが中心となって展開されてきたため、「本当に貴方のやりたいことは?」と問うことが普通でした。しかし、その前に社会の仕組(法律制度 や経済構造)等、働くための基本常識として知っておかなければいけないと思います。特に今のような景気後退局面においては。大学で開催される就職セミナー も同様で、最初にまず自己分析から始めなさいと言う方が多いですが、私はそれは2番目で良く、まずは自分の関心のある業界や企業の知識を多く得て、その中 で自分のアンテナに引っかかっった理由を考えると良いと思います。つまり、最初は社会(企業・業界)を知り、その次に自己分析で自分がその世界に惹かれる 理由(これが志望動機です)を考える方が良いと思います。「やりたいことが見つからない」という人に不足しているのは「やる気」ではなく、社会知識(企業 情報・仕事情報)です。知らない仕事はやりたいとは思えませんからね。大学のキャリア教育や就職セミナーで改善して欲しいと思うところです。

●「一番印象に残っているのは、ものを、創ることのできる人間が、これから求められているのかもしれないということでした。」
こ こでの「もの」というのは、物質としてのものだけではなく、サービス等も含んでのことだと思いますが、クリエイティブな発想というものがますます重要にな るでしょうね。仮に物質的な「もの」だとしても、これまでの発想とは異なるものが必要だと思います。というのは、BRICS等のようにこれから発展する 国々には私たちが作ってきた物質的な「もの」が間違いなく売れるマーケットがありますが、そこに対しては私たちがこれまで使ってきた同じ「もの」ではなく 新しい発想の「もの」でなければならないと思います。具体的に自動車を例にすれば、これまでの自動車をそのまま海外で導入されたら大変な環境問題になりま すので、燃費改善・代替エネルギー等の新しい発想の「もの」が求められます。それが、今のトヨタなどが必死に考えていることですし、日本の世界的使命だと 思います。教育についても、そういった視点と責任意識を持たせる・気づかせる。体感させることが必要なのではないかと思います。

●「現代は学歴などは重視されないといいますが、学歴や資格はその人の努力を示す良い指標だと思います。」
こ れはまったくその通りです。良く週刊誌やネット情報で、「就職に学歴は関係ない(ある)」という議論が出ますが、そういったイチゼロ判断は全く短絡的で低 俗なゴシップ的な視点です。進学率が一桁台の時代ならともかく、学歴だけでその人物を判断するのは大学全入時代においては危険です。ですので、どの企業も 大学レベル(偏差値)は絶対に参考にしています。しかし、それは一次選考の段階で、それをクリアした段階では人物重視の選考になってきます。ということ で、企業は学歴や資格も重視しますし、人物も重視しているのです。選考段階においてその比重が変わるのが通常企業の選考手法です。たまに有名企業が「学校 不問」選考というやり方を告知しますが、それはメディア受けの方を狙った宣伝だと思います。某有名企業が本当に学校名不問選考を行ってみて結果を見てみた ら、ますます一部の学校に内定者が集中したという笑えない事実があります。(その後、その会社は密かに学校名不問選考をやめました。)私も、学歴や資格は (特に新卒の場合)、その人の特性(関心分野・集中力・持続性・時間管理力等)を理解する良い情報だと思って見ています。(私の場合、大学成績もこの視点 で評価していました。)その人が如何に一生懸命に取り組んだか、という証ですね。就職活動において、学歴や資格は成績は、その結果だけを自慢するのではな く、それをとるまでの自分の努力を自慢して下さい。大学の勉強も何(What)を学ぶかと、どう(How)学ぶかの両方があります。後者を見失っては勿体 ないです。ちなみに、新卒採用において大学の専攻分野をあまり問わないのは日本企業の特徴です。それはHowを重視しているからです。

●「日本の雇用形態は急速に米国的方針に近付きつつあるが、それは非常に無理があると思う。
そ うですね。今の日本の雇用形態は、少し前の成果主義から旧来の良さを見直しているところでした。米国のような労働移動の盛んな「短期契約社会」と、定着性 の高い「長期信頼社会」は、それぞれの国家の戦略・文化・歴史的背景・地政学的理由(大陸型か島国型か)等から形成されたものですから、これまでの自国の やり方を急にグローバル・スタンダード(アメリカン・スタンダード)に持って行くには無理があります。その見直しのところで今回の急な経済破綻がおきたの が悩ましいところです。しかし、この状況での日本企業の行動をよく見ていて下さい。雇用戦略をどうすべきかという経営者の判断からその企業の思想や社員と の関係が見えてきます。米国型で正社員もリストラするのか、社員全員給料を20%カットして何とか全員の雇用を守るのか(これがワークシェアリング)、い ろいろな方法があります。最後に、日本のシステムはとても良くできていますが、そのままではグローバル・スタンダードにはあまり向いていないと思います。 ですので、日本が日本のやり方を海外に紹介したいなら、その紹介の仕方も改めて考えなければなりません。そもそも時間をかけないと良さがわかりにくいシス テムですから。ですので知日派といわれる外国人の方は、熱烈に日本を好きになってくれます。(最近は日本人がそれを忘れがちデス。)

●「私はこれからメディアに勤める身なので少々耳が痛かった。」
そ れは失礼しました。しかし、私はメディアの重要性を疑えと言ったのではなく、メディアの情報を鵜呑みにするな、ということを言ったつもりでした。情報過多 のこの時代ほど、メディアが社会を動かすのでその重要性は間違いありません。同時に、質の高い、信じられるジャーナリストが今ほど求められる時代はないと 思います。かつてのジャーナリストは、世の中に知られていないことを報道する役割が大きかったと思いますが、今は数多くある情報の中で何が本当なのかを伝 える役割、信頼を提供する役割になってきたと思います。新聞・TVよりも速くネットで情報が入ってくる時代なのですから。それも単に自分の視点をミクロの 現場情報だけで伝えるのではなく、今回いくつか例をあげて紹介したような(内定切り・派遣切りの数)ことを、ちゃんと定量的な視点(マクロな視点)と比較 して提供できるようになって欲しいと思います。是非、信頼されるマスコミになれるように頑張って下さい!
ちなみに、米国のメディアではデータの出 展や調査方法もちゃんと開示しています。新橋の駅前のサラリーマン100人にインタビューというのは見ていて面白いですが、報道とは言えないと思います。 以前は、「そんなバカな」と笑って本気にしない人も多かったのですが、最近の「受け売り社会」では、「ねえ、知っている?」と瞬く間に広がり、それが現実 化するというやっかいな傾向になってきているようです。情報の見方もキャリア教育に入れなければならないかもしれませんね。

他にも多くの コメントがあり、全てに回答したいところですが、時間と紙面の都合により、このへんで失礼致します。私はいろいろな大学でキャリアについて話す機会があり ますが、上智大学の皆さんは反応が個性的で鋭くて面白いです。朝まで議論してみたいですね。これから試験期間だと思いますが、風邪に気をつけて頑張って下 さい。
3年生の方は就職活動のご健闘、お祈りいたします!

▼以下、私からの追加メッセージです。

~「運」を「縁」に、「縁」を「恩」に~
「運」は誰にでも偶然に訪れますが、それを努力してつなげていくと「縁」に変わります。
そして人間関係が広がり、いつか縁に感謝して「恩」の気持ち(For Othersの精神)が生まれます。
それが、計画された偶発性(Planned Happennstance)ということです。
キャリアのヒントは身の回りに転がっています。
是非、それを拾いあげて取り組んで下さい。
大学という恵まれた環境を積極的に使い倒して下さい!

~過去の事実は変わらないが、過去の見方はいくらでも変えられる~
未来に向かって進むために、過去の出来事の意味を問い直す。
新しい過去の見方ができたとき、きっとみなさんは一回り成長されていることでしょう。
自己理解は“探す”とか“見つける”とかではなく、自分の未来を開くための創造活動だと思います。
人間、生まれ変わることはできませんが、変わってはいけると思います。

~生きるってことは、期待と不安を背負った実験と冒険~
未来は自分で体験してみないとわからない、未来は見えないから面白い。
一度も失敗しない人生よりも、何度失敗しても立ち直る人生の方が面白い。
自分の人生は誰かと似ているようなものであっても自分自身だけのオリジナルなものです。
いつか皆さんの冒険談をお聞かせ下さい。楽しみにしております。
みなさんのチャレンジを心から応援しております!

●参考文献:
1.「哲学は何の役に立つのか」 西研、佐藤幹夫:洋泉社
2.「『やりたいこと』がわからない人たちへ」 鷲田小彌太:(PHP文庫
3.「キャリアショック」 高橋俊介 東洋経済新報社
4.「現代大学生論」 溝上慎一:NHKブックス
5.「女性の働き方ガイドブック」 大石友子:経済産業調査会
6.「自己発見の心理学」 國分康隆 講談社現代新書
7・「キャリアカウンセリング入門」 渡辺三枝子、E.L.ハー:ナカニシヤ出版
8.「自信力が学生を変える」 河地和子:平凡社新書
9.「話せぬ若手と聞けない上司」 山本直人:新潮新書
10.「壊れる日本人」 柳田邦男 新潮社
11.「島国根性を忘れてはいけない」布施克彦:洋泉社新書
▼このサイトでもにもいろいろ紹介しています。
http://www.careerangel.jp/library.htm
▼気紛れに就職活動に関するコラムを書いています。
http://www.careerangel.jp/community/
▼私のブログです。
http://stage41.blogspot.com/
以上
▼鈴木美伸プロフィール:email:ysuzuki@stage41.com
1984 年東京エレクトロン株式会社入社。外資系半導体(LSI)のセールス・エンジニアとして輸入販売ビジネスに携わった後、営業マン、エンジニアの能力開発担 当になる。1993年に日本生産性本部(現・社会経済生産性本部)組織革新コースにて他企業の人事部メンバーと間接部門の効率化について研究、論文をまと める。
1995年人事部に異動し、採用労務等の業務を担当。営業ノウハウを生かした独自手法にて理工系新卒の採用ルートを確立、また事業の海外展 開にあわせて留学生採用にも注力する。インターネット時代の到来に対応した採用手法の開発に取り組み、データーベース・サーバー、Webサーバーを立ち上 げ、インターネットとイントラネットの融合を手がける。
2000年同社を退社し、フリーランスとして採用関係のコンテンツ・ライターおよび採用コンサルティングの業務を請け負う。
同年、米国eBusinessプロフェッショナル・サービス・ファームのサイエント社入社。リクルーティング・ディレクターとして日本法人の立ち上げに携わる。
2002年5月有限会社ステージ・フォー・ワン(http://www.stage41.com) 設立。代表取締役として、現在に至る。労働者の雇用多様化、日本企業の人事部の構造変化、ナレッジ・マネジメント、キャリアカウンセリング、大学のキャリ ア教育、大学・企業のキャリアセンター機能、個人のキャリア形成等の研究が現在の関心事。企業間の採用担当者コミュニティ「Professional Recruiters Club」(http://www.recruiter.jp)代表。
フェリス女学院大学・工学院大学、吉備国際大学非常勤講師(キャリア論)
米国Center for Credentialing & Education, Inc認定.Global Career Development Facilitator-Japan キャリアカウンセラー