高等教育の社会学

教育社会学では、昔はあまり高等教育の研究はなされていなかったが、21年前に教育社会学の研究者を中心に「日本高等教育学会」が出来て、それ以来高等教育の研究が盛んになっている。
最近の高等教育学会の紀要や発表題目をみると、マクロな制度的な研究が多く、私のようにマクロとミクロの接点にあることに興味があるものには少し興ざめだが、高等教育のマクロな制度に関する研究に関しては、教育社会学の研究者の発言が、一番説得力をもっているように思う。

今朝(6月27日)の朝日新聞の朝刊にも、現在教育社会学会会長の吉田文さん(早稲田大学教授)の「中教審部会が中間まとめ」へのコメントが掲載されており(下記に転載)、納得させられる。
<『2040年の大学、変わる姿 中教審部会が中間まとめ、焦点は 識者に聞く』
2018年6月27日、朝日新聞 朝刊より一部転載)

 ■乏しい新味、予算措置の提言必要 吉田文さん(早稲田大学教授〈教育社会学〉
 ――中間まとめの全体的な印象を教えてください。
 大きな社会の変化を踏まえ、長いスパンで高等教育のあり方を考える議論になると期待しましたが、何を構想しているか、わかりにくい印象です。
 私たちは大学教育のあり方がこれから大きく変わる、と危機感を持っています。例えば、学生を教室に集めて一斉授業を行うままでいいのでしょうか。教員は、専門的な知識の提供だけで済むのでしょうか。
 しかし、中間まとめは新しい内容にあまり触れず、「従来の施策を徹底すべきだ」という提言ばかりです。各大学に強みや特色を生かすよう求めていますが、高等教育システムの全体をどういう方向に持っていくのか、明確に示されていません。
 ――大学同士の連携・統合を促すため三つの案が示されました。
 三つの案も、これまでにも行われてきたことの延長上の内容です。新たな提案として「地域連携プラットフォーム」がありますが、地方自治体や地元産業界の力が強くない地域の大学ほど支援を必要としているので、どこまで効果があるのか疑問です。
 ――大学の機能分化の案も盛り込んでいます。
 機能分化(種別化)は大学の反発が強く、文部科学省では長い間タブーでした。小泉政権下の05年に中教審は「七つの機能」を示しましたが、国が押し付けるのではなく、大学が自ら選ぶという位置づけでした。一方、現在は私大の4割が定員割れし、産業界からも「大学が多すぎる」と指摘されています。今後、機能分化という形で、文科省から私大への介入が強くなっていくと思います。
 ――首相官邸が主導する有識者会議の提言も反映されています。
 官邸主導の会議では、教育をよく理解していない人が極端な提言をすることがよくあります。ですが、文科省や大学も世間が納得する論理で反論できていません。そんななか、中教審は官邸から来た政策を具体化させる機関になっているように見えます。
 ――大学にリカレント教育(学び直し)の体制を整えるよう求めています。
 方向性は賛成します。ただ、大学教育のあり方と同時に、学び直した人の社会での処遇についても再考が必要です。これからどんな社会が来るかわからないうえ、労働力も減っていくのですから。
 ――ほかに気になる点はありますか。
 改革には予算が必要ですが、「資金を充実させるべきだ」という表現がほとんど見られません。「公的支援が必要」と書く一方、「選択と集中」が強調され、印象が薄くなっています。答申では「これだけのお金がないと、改革はできない」と書いてほしいです。 (よしだ・あや 日本教育社会学会長)