先輩の研究者で、現在も活躍されている方が、私の周囲では何人かいる。それも何かの名誉的な役職に就いているというのではなく、新しい著書を出版されているのであるから驚きである。本を執筆・出版するということは、他のこと以上に、頭を使い体力を使い神経を使う。それだけ齢を感じさせないということである。
私が若い頃、調査研究他でお世話になった深谷昌志先生(東京成徳大学名誉教授)から、最新刊『子ども問題の本棚からー子ども理解の名著25冊を読み解く』(黎明書房、2019.5)をお送りいただいた。
<半世紀以上にわたって子ども研究を重ねてきた著者が、現代の子どもを捉えるのに示唆に富むと思われる25冊を厳選して紹介。古今東西の名著のすばらしさ、面白さ、問題点を著者独自の鋭い視点で批評。><子ども問題に精通する著者が、P・アリエスの『〈子供〉の誕生』や千原ジュニアの『14歳』など古今東西の25冊の子ども理解の名著を読み解きながら、子どもが抱える様々な問題を独自の視点で解明します。>(www.reimei-shobo.com/ISBN978-4-654-02312-7.htm)
上記の本の紹介にあるように、教育や子どもに関する古典を丁寧に読み解いたもので、その文献の歴史的、時代的意味を解説し、また現代の視点からも考察した内容で、筆者の若い頃の読みと今の読みの比較、本の著者の思いへの共感(そして疑問も)など、円熟した研究者ならではのもので、深い感銘を受ける。原著者と評者のスリルに充ちた論争のようで、思わず原著を読み直し、その議論の行く末を見極めようとした文献もいくつもある。
大学の教員も定年があり、定年まで勤めればあとは研究など続ける必要はないと思われがちだし、本人もそう思っている人は多いと思う。深谷先生のように定年をはるかに過ぎても(1933年生まれ)、研究意欲が衰えず、新しい著作を次々出版される方が少数ながらいる。その意欲はどこから生まれてくるのであろうか。その何分の1かでも学びたい。