教員採用試験では、模擬授業が課される都道府県が多い。その為、その対策講座が敬愛大学で開かれている。それを見学した。
課題が与えられた後、数分で授業案を考え、同じ受験生を児童・生徒に見立てて、1時間の授業の最初の部分を、10分程度実施する。
小中学校では、一方的な講義ではなく、児童・生徒に話しかけ、問いを発し、意見を聞きながら、その解答を使いながら、授業をすすめることが求められている。したがって、話し方だけでなくコミュニケーション能力、演技力、瞬時の判断力が求められる。かなり高度な技術だ。
児童・生徒役の受験生に問いを発し、その解答を使い、授業の展開を考える為、どの方向に向かうかが不確定な部分がある。その点が一方的な講義と違い、難しい。それに対する対策は、「課題を明確化」しその課題に即した解答を引き出すように仕向けることである。課題に即した教師の発問が、いかに大切かがわかる。つまり「授業のネライを定める」ことが重要。
その日に出された問題に一つに、「卵アレルギーがあり給食を残した児童がいました。班のみんなはずるいと言っています。どうしますか」というのがあった。
ひとりの学生は、食べ物の好き嫌いを児童に聞き、そこからこの問題を考えるような授業の展開をした。児童の関心を引き付ける点ではよかったが、課題の、食物アレルギーの問題にうまく繋がらないという問題点が指摘された。それより、食べ物の好き嫌いと食物アレルギーの対比で、児童に考えさせた方が、いいという指導があった。
「クラスの子が、自転車に乗っていて交通事故に合いました。再発を防止する指導をしなさい」という課題に対して、「学校や社会でのルールがなぜ大切なのか」という発問をして、そこからこの問題を考えさせようとした模擬授業に対しては、ルール一般に関心が広がり過ぎ、自転車の事故に限定した問題に関心が向かわない点が指導がされた。
「靴を隠された児童がいます。先日も筆箱がなくなっています。どう指導しますか」という課題に対して、ひとりの学生は、「自分のものがなくなるとどのような気持ちなのか」ということを児童に考えさせ、そこから、「人が困るような、悲しむようなことはしないようにしましょう」という展開の模擬授業を行った。
それに対して、そのその方法は、オーソドックスだけれど、「なぜ靴や筆箱を隠したのでしょうか」という加害者の気持ちを推測させる発問をして、そこから授業を展開させる方法もあることが指導された。
「楽しい学級づくり」というクラスの当初の約束違反という論理で迫る模擬授業に対しては、「焦点がずれてしまう」という、批判が仲間からあった。
また、このようなことの再発防止に関して、「このようなことを今後しないように努力します」という児童に対して、「これは『しないように努力する』、ということではなく、『絶対に今後しません』と決意が必要なことです」と、教師の強い姿勢を示すことも必要だ、という指導がなされていた。
教育現場の経験が長い先生たちの学生対する指導を見学しながら、学ぶことが多かった。学生達もその指導をすぐ受け入れ、授業技術が、毎回向上している。
それにしても、小学校の教員の授業の仕方に、大学の授業の仕方が学ぶことが多い。
上記の「靴隠し」の再発防止策の考え方は、大学の私語対策にも使えると思った。まず、私語によって、「教員及び授業を聞こうとする学生がいかに困っているのか」、ということを、学生から意見を出させ、それを全員で共有し、その後で、「私語はしないように努力します」ではなく、「絶対にしない」という決意表明をさせる。その約束を断固守らせる、教員の決意を示す。