昔の私の大学時代を思い出してみると、間違えて理系に入学してしまったこともあるが、3年次に進学した教育学部の授業も興味を惹くものでなかったし、入った大学のサークルも自分の得意な分野ではなく、悶々とした暗い日々を過ごしていたように思う。
そのような折、家の近くの市川市立図書館に、「さく壁読書会」という会が月に2回開かれているのを知り、ポスターを見て、それに参加するようになった。
参加した初回のテキストは、大江健三郎の『死者の奢り』だったように思う。毎回各自テーマの本を読んできて、自由に討議するような会であった。お蔭で、たくさんの小説を読んだ。この会は、200回以上続き、私も3年以上参加し、多くの友を得た。
その時中心になっていたのは、片岡一彦さんという中央法学部の4年生で、私より2歳上の人だった。その世代の文学好きの人たちが集まり、同人誌のようなものまで出していた。そこには、大江健三郎ばりの小説が何篇も掲載されていた
読書会やその後の喫茶店での話し合いは、私にとって新鮮なものであり、暗い大学生活に一条の光がさしているようなものあった。その先輩の片岡さんのアパートはうちに近いということもあり、よく家に来てくれて、いろいろな話を聞きことができた。母もその片岡さんのことはよく覚えていた。
その片岡さんより、今回母へのお悔やみの言葉と、片岡さんが書かれた素敵な本を贈っていただいた。片岡さんは若い頃に小説を書かれていただけあり、その文章に香りがあり、それに円熟さが加わり、味わいの深い内容になっている。
片岡さんのはがきと本を、仏壇の前に置き、亡き母にも報告した。母は、喜んでいることであろう。。