今は映画が巷に溢れていて、またテレビでもDVDでもネットでも映画がみられるので、映画の有難味が薄れている。
それに比べ、今から60年以上前の私の少年時代は、映画を観る機会はほとんどなく、映画と言えば、学校の映画教室か、夏休みに学校の校庭で布のスクリーに写し出されてものを見に行くくらいであった。
学校の映画教室は、小学6年生の時1度だけあり、確か市川崑監督の「ビルマの竪琴」を外の映画館に6年生全員で観に行き、担任の児玉先生が真っ赤に目を泣きはらしていたのが印象的であった。(とても「こわい」先生だったので、私たちはその先生が泣くとは考えられなかった)。
その頃住んでいた中山(市川市)には映画館がなかったように思う。映画を観るためには東京の日比谷まで行かなくてはならず、2度ほど親戚の「兄」(父の従弟)が、日比谷に連れて行ってくれた。
その時観た映画は、今でも鮮烈に覚えている。1つは、「沈黙の世界」(1956年)という海洋記録映画。確か2本立で、「カラコルム」(1955年)という沙漠の記録映画も一緒の上映であった。どちらの映画も感動的で、「映画っていいな」と少年心に深く刻みこまれた。
もう一度は、黒沢明監督、三船敏郎主演の「隠し砦の3悪人」(1958年)という時代劇である。その映画自体のストーリーも映像も強く印象に残っているが、そこに出ていた姫役の女性(上原美佐)のきりりとした美しさに,少年ながら心打たれた。
今日(7日)、たまたまNHKのBSにチャンネルを合わせたら「隠し砦の3悪人」をやっていて、つい(後半だけであるが)見てしまった。黒澤明監督の作品だけあって、映画として時代を感じさせない質の高いものであり、このようなよい映画を昔観た至福を感じ、その映画を観に東京(日比谷)まで連れて行ってくれた、今は亡き「兄」に感謝した。