文献の引用について

論文で文献を引用する場合、その分野で最初に書かれた文献を引用するのが礼儀であろう。しかし、実際は最初の文献ではなく、執筆者の目に触れた文献(それはよく引用されるものが多い)が安易に挙げられ、最初に書いた研究者は悔しい思いをする場合が多い。

自然科学の場合は、それを最初に発見したとか証明したとかという優先性が重んじられると思うが、社会科学や人文科学の場合、その点がかなりあいまいになっている。それでも、アイデアの初発性というのは、自然科学以外でも、学問(科学)である以上重んじられるべきだと思う。

私が「生徒の下位文化をめぐって」という生徒文化に関する研究ノートを『教育社会学研究27集』に書いたのは1972年である。その時は、外国の文献と同時に、日本の研究では、野村哲也(1967)や松本良夫(1969)のものを挙げた。

『教育社会学研究37号』(1982年)に「学校社会学の動向」を書いた時、生徒文化の研究への初期の頃の提案者として河野重男先生を挙げ(『教育経営』第一法規出版、1969)、先生から感謝された。

今回、手元の古い文献を見ていたところ、下記の論文から多くの示唆を受けたことを思い出した。これまで引用しなかったが、記録に残しておきたい。

矢野弘「青年文化の研究Ⅰ-米国社会学者の4つの見解を中心として」『九州大学教育学部紀要、第10集』(1964年)

追記 アメリカの学会に詳しいK氏より、下記のコメントをいただいた。感謝し、転載させていただく。

<最近武内さんのブログで「論文の引用」について読みましが、たしかに日本の文科系ではその研究領域の最初の研究論文を言及するという習慣が薄いと思います。こうしたことは研究者の訓練過程でもあまり強調されていなかったと思います。研究のオリジナリティを尊重すべきだということでは、川島武宜の『ある法学者の軌跡』の中の「論文の書き方」(?)が勉強になりました。この本を何度も読み、勉強になりましたが、研究のオリジナリティを尊重しないというのは昔からのようです。日本人の情報収集力のなさと図書館なども不備などもこうした原因かと思います。アメリカの社会学会などでは論文の引用回数がより重視されるようになっているようです。>