佐藤厚志「荒地の家族」を読む

東日本大震災に関しては、写真やドキュメンタリ―映像や体験者の話によって記録され、人々はそれらに接することにより、その恐ろしさを記憶にとどめることができる。同時にそれは、文学特に小説という形でも残すことは可能であろう。

第168回令和4年下半期の芥川賞を受賞した小説、佐藤厚志「荒地の家族」は、その優れた例である。選者の一人の小川洋子は、「この小説は、東日本大震災を文学として記すためにはどうしたらいいか、1つの道筋を明示している」と称賛している。9人の選者の講評を一部転載しておく(『文藝春秋』2023年3月号からの引用)

「復興から零れ落ちた人々の生死を誠実なリアリズムで描く」(平野啓一郎)、「リアリズムの技法を徹底することで成功した」(奥水光)、「震災によって失われた土地や風景、コミュニティの再生に取り組む主人公の苦闘のルポルタージュ」(島田雅彦)、「主人公は造園業を営む。土地を掘り、樹木を切り、苗を植える。常に両足は大地を踏みしめ、そこに埋められた死者たちとつながり合っている」(小川洋子)、「3・11を生き延び人々の人生を重厚且つ誠実に描く。この災厄を『風景』の喪失として、これほどなまなましく物語った小説は過去になかったのではないか」(松浦寿輝)、「震災後の荒涼とした海辺だけでなく、記憶を奪う引き波への抵抗が描かれる」(堀江敏幸)、「正視するとつらいさまざまな事々を、つらさの強調にも安易な解決にも向かわせず,公正に描き切るという、胆力の必要な作業を経た作品」(川上弘美)、「震災を便利づかいしていない誠実さを感じた。悲痛な日常を書いて、なお小説としておもしろい」(山田詠美)、「読後、胸に熱いものが込み上げてきた」(吉田修一)。