私の年齢になると、同期やそれに近い年齢の友人や知人の歯が抜けるように、いなくなることが少なくない。高校の同級生でも既に5人が亡くなっている。
自分も明日の命がわからないという気持ちで、いろいろなことを真剣にやることになる。たとえば、同世代の友人、知人とのやり取り(会合やメールの交換等)は、これが最期かもしれないと真剣になる。
同じようことを、同世代のMさんは感じているようで、知人に送ったメールを見せていただいた。(了解を得て、掲載する。)
Mさんのメール
この年齢になると友人の訃報に接する機会が多くなります。A君は昨年の9月に大腸がんで入院して二度の手術、この3月に三度目の手術をします。彼は高校時代の友人です。化学品メーカーに勤め世界を股に活躍したビジネスマンです。彼とは池袋でよく飲みました。今は頻繁にメールを交換しています。
「M君へ 先日、テレビで壇一雄の回想の番組で「昔おとこありき」なるものを放送しておりました。自由奔放に生き旅に明け暮れ肺癌で63才の若さで亡くなったのではありますが最後の病床で代表作「火宅の人」を完成させた彼の生き方に感銘しました。彼の複雑な生い立ちを追い、その後の彼の足跡をたどると人間にはしかるべき人生をたどる宿命があるのだとつくづく思います。私も残された人生を深く味わい大切に過ごそうと思います。Aより」
「A君へ 昨夜は貴兄の張りのある声を聴くことができ、抗がん剤の効果と貴兄の努力による免疫力と自己治癒力の増進を強く感じました。壇一雄は好きな作家のひとりです。沢木耕太郎のルポルタージュ「檀」は面白い本でした。沢木が壇一雄の生涯をヨソ子未亡人にインタヴューをしてまとめたものです。「 火宅の人」の登場人物の愛の痛みや執念といったものよりも南蛮ポルトガルの風物に惹かれました。多分私は女というものが未だに分からない証拠だと思います。王子駅から会社への道に小さな公園があります。そこに沈丁花の植え込みがあります。香り始めると春を感じ厳しかった冬を切り抜けたという感慨を持ちます。あとひと月もすれば咲き始めます。お互いにがんばりましょう。M」
「M君へ メール有難う。今日は雨模様の日です。文芸春秋を読みテレビを見つつ一日が過ぎていきそうです。埼玉県は日本で一番快晴の日が多い県ということですが、確かに東北の冬と比較しますと雪も殆どなく冬でも太陽が燦々と輝いている日は心も明るくなります。壇一雄は晩年(60歳)の一年余をポルトガルのサンタクルツで過ごし彼の地で多くのポルトガル人との深い友愛関係を築いたようですが、彼の暖かい人間性がそうさせたのでしょう。一方、その日々の中には彼の深い孤独も又あったはずです。昔リスボンに出張し、一人哀愁に満ちたファドを聞きながら彼の孤独に思いを馳せたのも懐かしい想い出です。 すべては過ぎ去った懐かしい想い出です。大寒の季節です。お元気で過ごされますよう。A」
「A君へ ファドは旅番組で聞いたことがあります。物悲しい音調は遠い海に男を送りだした女の嘆きでしょうか。ところでヘンリー航海王子のサグレスやロカ岬には行きました?ロカ岬はヨーロッパの最西端「ここに地終わり 海始まる(Where the land ends, and the sea begins)」石碑が建っているそうですね。これは沢木耕太郎の「深夜特急」で知りました。ところでフランスとスペインを隔てるピレネー山脈にバスクという地方があります。バスク人イエズス会宣教師のフランシスコ・ザビエルはポルトガル王の依頼でインドのゴアに派遣され、その後1549年に日本に初めてキリスト教を伝えました。バスクに関して司馬遼太郎の「南蛮への道」に詳しく書かれています。一度行ってみたいところです。それでは今日も散歩に励んでください。M」