「内外教育」の「ひとこと」に書いた原稿を、下記に転載しておく。
教育の世界では当たり前のことが、教育の外の世界ではそうではないことがある。最近では大学の学問の自由、多文化主義、リメディアル教育などが、世界の政治家や日本の政府から問題視されている。それらは時の政策や経済発展の阻害要因になると考えられている。
教育は真空の中で理想通り行われるわけではなく、その時々の社会の状況の制約の中で行われるので、外から強い要望が寄せられる。教育の世界は外圧から比較的保護されているが、危機や不況の時代には、政策に批判的であったり、効率が悪いと、教育に非難が浴びせられることが多い。極端な発言がなされ、世論の賛同も得る。それが教育の弱点や怠慢を突いている場合もあり、教育の側も改善をはかる必要がある。どのような理想的な制度も成員の日々の努力なしには存続しない。
教育はもともと普遍的な理想を掲げ、それを追求する側面がある。同時に理想に安住し現実を顧みず形式主義に陥る傾向もある。これまでも既存の学校制度を鋭く批判した思想家(イリイチ等)もいたし、新型コロナの蔓延で、学校の諸活動の再吟味がなされた。学校の慣行には、時代錯誤で無駄な部分もある。教育において一部の子どもが優遇されるあまり、置き去りにされている子どももいる。
一方現代は、経済優先という惡貨が、理想の教育という良貨を駆逐している面もある。弱者を支援する教育は経済効果がないと不況の時代には非難される。今覇権国家の自国の経済優先主義、他国への理不尽な進攻を多く見ていると、理想を説く教育は、今の時代こそ必要なものに思える。国民が利己主義に陥るか利他主義を選択するかは、教育によって培われた心情や価値観によるところが大きい。真理の探究、思いやり、相互扶助、国際理解など、教育の理想は世界の人々の共生と平和をめざしている。良貨の教育の努力で利己主義的な悪貨の蔓延を防ぎたい。